手術でがん発症リスクを軽減

手術でがん発症リスクを軽減

2013.5.23 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

5月中旬、「アンジェリーナ・ジョリー(アンジ—)が乳がんのリスク低減(軽減)手術として両側性乳房切除術を受けていた」というニュースが流れました。それはみるみるうちに広がり、ワイドショーをはじめマスコミはこぞってその話題を取り上げています。

 

手術でがんを予防できる?!

アンジーがその決断に踏み切ったのは、母親を乳がんで亡くしている彼女が遺伝子検査を受けた結果、自身も乳がんに罹る確率が87%、卵巣がんでは50%という結果が出たためでした。そして2013年2月から約3か月にわたる治療を終えた段階で、公表に踏み切りました。「多くの人に乳房切除という選択肢があることを知ってもらいたかった」というのが公表の理由です。
彼女が受けた手術は、乳頭を残してその下の乳腺を摘出する手術および、乳房再建手術でした。それによって乳がんの罹患率は5%まで低減できるということです。同じように遺伝性の卵巣がんに対してもリスク低減(軽減)手術は行われますが、いずれも特定の遺伝子の変異が原因で乳がんや卵巣がんのリスクが高まるHBOC=遺伝性乳がん・卵巣がん症候群が対象になります。
 自らの肉体を使って表現活動を行う女優という職業のアンジーが、その健康な肉体にメスを入れたことは、がん発症に対する不安の大きさを表していると思いました。同時に「その方法があったのか」と、驚きを感じました。

 

日本国内でもリスク低減(軽減)手術の実施に加速。

 テレビの街頭インタビュー等を観ていると、一般女性の声もいろいろです。「確率の問題で、必ずしもがんになるとは限らないのに手術はどうだろうか」「同じ立場なら自分も手術を受けるかもしれない」「乳腺を取ることは授乳ができなくなるということだから迷う」「ずっと不安を抱えているよりも、気持ちがすっきりしていいかもしれない」、等々の意見が聞かれました。これらの声には、この手術のメリット・デメリット(表)が含まれています。
 決断の難しいリスク低減(軽減)切除術に至るまでには遺伝相談・カウンセリング→遺伝子検査→対策の選択(定期的ながん検診で早期発見早期治療・タモキシフェンによる化学予防・リスク低減予防切除術の三つがある)、というように段階を踏んで進めていきます。米国では遺伝子検査とリスク低減(軽減)切除術は一般的になりつつあり、検査で遺伝子の変異が見つかった人の約半数は何らかの予防的治療を行っているといいます。新聞の記事によると、日本においても臨床研究として同手術を行ってきたがん研有明病院には手術の問い合わせや相談・希望が寄せられているそうです。また、聖路加国際病院ではすでに倫理委員会がリスク低減目的の乳房切除術を承認しています。今後は遺伝子検査、リスク低減(軽減)切除術も予防対策の選択肢の一つとして広がっていくようです。

 

表 リスク低減(軽減)切除術のメリット・デメリット


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細やかなカウンセリング体制で発症予防をサポート.

 アンジーにはパートナーであるブラッド・ピットが決断および手術に立ち合うなど献身的に支えたといいます。パートナーの支えは重要ですが、同時に、医療者のサポートも欠かせません。特に「遺伝子」という個人およびその血縁者の揺るぎない情報に基づく判断は、子どもを含めた血縁者にもその結果は影響を及ぼすこと、良し悪しに関係なく結果は変わることがないことなどから、非常に難しいものです。そのため専門知識をわかりやすく提供しながら判断をサポートする医療者が必要です。ゲノム医学や再生医学を応用した医療技術が一般医療にどんどん導入されてくる今後、そのニーズはさらに高まっていくでしょう。
遺伝カウンセラーは遺伝医療を必要としている患者や家族に、適切な遺伝情報や社会の支援体制等を含むさまざまな情報提供と心理的・社会的サポートを行っています。日本では日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が協力して「認定遺伝カウンセラー制度」が発足しました。また日本遺伝看護学会では、遺伝子治療の普及を見据えて同学会HPを通じて、看護職に以下のように呼びかけています。

 

「看護職への期待」~日本遺伝看護学会HPより引用

☆あらゆる領域、あらゆる人々が看護師に遺伝学の知識に基づいた説明・アドバイスを求めるようになるでしょう。
☆看護師は、遺伝学の進歩した背景をよく理解し、遺伝医療が人々の幸福に寄与できるよう活用しなければならないでしょう。
☆ 看護師は相談者の1人1人の決定を支えるための倫理的感受性を養う必要があるでしょう。

 

一般のスタッフも看護の基礎知識として遺伝看護の知識をもち、日常の質問やサポートに活かしていけるような準備が必要な時を迎えています。

 

参考HP
●NCCN腫瘍学臨床実践ガイドライン 乳がんリスク軽減
http://www.jccnb.net/guideline/images/gl09_rsk.pdf

●HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)に関するwebサイト
http://hbocnet.com/

●認定遺伝カウンセラー制度委員会
http://plaza.umin.ac.jp/~GC/index.html

●日本遺伝看護学会
http://idenkango.com/
 

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