かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.2.10 update.
都立駒込病院感染症科医長・感染対策室長
著書に『JJNスペシャル82 感染症に強くなる 17日間菌トレブック』がある。
感染症の情報満載のtwitterはこちら→@imamura_kansen
イラストレーション:櫻井輪子 http://www.wakonosu.net/
インフルエンザが全国的に大流行しています。
今はA香港型が流行の中心ですが、いっしょにB型も発生しています。
そして、これからはB型がより増えやすい時期となります。
まだまだ気をゆるすことができません。
今回は「知っておきたいインフルエンザの情報」をお話ししましょう。
まだ前回のインフル情報を読んでいない方はこちらを先に読んでください。
例年の典型的なパターンでは、A型の流行がピークを越えてくると、それに変わってB型が流行しやすくなるという傾向があります。
今季は最初からB型のインフルエンザが、あちこちで集団発生をしていました。これからはB型の動向に注目しましょう。
インフルエンザワクチンの最大の目的は、重症化を防ぐことにあります。重症のインフルエンザは急速に脳炎や肺炎が進行します。このような場合には診断してから投与するタミフルなどの抗インフルエンザ薬も間に合わないことがあるのです。
今季のワクチンには2つのタイプのA型(今回流行のA香港型と2009年に新型として流行した型の2つ)とB型の、合計3つのインフルエンザが含まれていました。この中でも、B型ワクチンは、A型よりも効果がでにくいという報告もあります。
インフルワクチンは、感染や発症を完全に防ぐものではありません。まだインフルエンザにかかっていない人、そしてA型にかかってしまった人も、気をゆるめてはいけません。今後もしっかりと手洗いや咳エチケットなどの対応を続けましょう。
高い熱がでなかったからインフルエンザじゃない!そう言いたい気持ちはわかります。しかし、インフルエンザは全員が高熱をだして発症するわけではありません。なかにはほとんど症状がなかったり、ごく軽い症状で終わる人もいるのです。ワクチンによる免疫があれば、さらに軽症で終わることが多くなります。また、インフルエンザの検査も100%発見できるものではなく、発熱2~3日目をピークに感度はさらに低くなります。
高熱がでていなければ出席停止や出勤停止はありませんが、人にうつす可能性はあります。「なんかおかしい。風邪かな?」と思ったら、他の人にうつさないようにマスクをつける、咳をするときは手やハンカチで口を覆う、横を向くなどの「咳エチケット」をしっかりとしておくべきなのです。
インフルの出席停止期間は、学校保険安全法の「解熱してから2日間」が基準となっています。そして、会社などの出勤停止も、これに準じて便宜的に決められていることが多いようです。しかし発症後も1週間近くウイルスを排出することがあることも知っておきましょう。
インフル出席・出勤許可は、うつらない証明ではないのです。その後も咳エチケット(マスクなど)と手洗いは、しっかりと続けてください。
これから感染する人のために、インフルエンザの薬をまとめておきましょう。(かからない方がいいのですが・・・)
解熱剤は、脳症を起こしにくいアセトアミノフェン(カロナール)がすすめられています。
《タミフル》カプセル薬
成人は1回1カプセルを1日2回x5日間
小児ドライシロップは体重で用量決定
*10歳代では異常行動との関連が完全に否定できないことから、今のところは積極的にはすすめないことになっています。
《リレンザ》吸入薬
1回2吸入を1日2回x5日間
(成人と小児は同量の投与となる)
《イナビル》吸入薬
1回吸入で治療終了:10歳以上は2本,10歳未満は1本のみ
《ラピアクタ》点滴の薬
1回の点滴で治療終了
なお、インフルエンザ薬は全員に必要という薬ではありません。軽症であれば解熱剤などの症状のお薬だけで様子をみることもあります。
特にタミフルは世界の7割が日本で使用されているとう情報があります。安易な使用での耐性ウイルス(薬が効きにくいウイルス)などが増えることも心配されています。
2009年に世界で流行した新型インフルエンザでは、日本でも最初の1年で約2000万人が感染したとの推計もあります。今後は、死亡率が高い鳥インフルエンザが変異して、新たなインフルエンザとして発生することが心配されています。
もしも、そのような新型インフルエンザが発症したら、ワクチンができるまでの約半年間は、手洗いや咳エチケットのみで戦っていかなければなりません。2000万人がかかるということは、残りの8000万人はかからなかったということでもあります。毎年のインフルエンザは「その時」のシミュレーションとして、もしかかったら行動をしっかりと見直して次の年を迎えることが大切です。
日常で出会う感染症、医療現場で出会う感染症、感染対策を読みやすい語り口でまとめた一冊。
菌のイラストも盛り沢山で、菌トレしているうちに気がつけば感染症に強くなっています!