「がん患者への口腔ケア」vol.2

「がん患者への口腔ケア」vol.2

2011.10.19 update.

がん外科療法,放射線療法を受ける患者さんを支える

口腔ケア,摂食・嚥下ケア

静岡県立静岡がんセンター 

摂食・嚥下障害看護認定看護師  妻木浩美

 

がん治療における口腔ケアは,患者さんの食べる楽しみ,栄養管理を支えるばかりか,治療成績の向上に寄与し,治療の中断を防ぐ,重要なかかわりです。近年,放射線治療を受ける患者さんも増加しており,口腔内のケアに加え,嚥下ケアにも注目が集まっています。がん専門治療施設の摂食・嚥下障害看護認定看護師として活動する妻木さんの寄稿から,ケアの目的と必要な介入・支援について学びましょう。

*妻木さんが講師を務めるナース向けセミナーの情報を文末に掲載しています。

 

がん外科療法における口腔ケアの目的


 がん治療における口腔ケアの目的は,口腔トラブルの予防とがん治療に伴う口腔内症状の緩和・改善です。周術期においては,術後の創部感染や肺炎を回避することがゴールになります。
 

 具体的には頭頸部がんの再建手術では,手術野が口腔内の汚染部位と頸部の無菌的部位が同じ術野に混在するため,術後の創部感染や肺炎などのリスクが高くなります。また食道がん手術後は,頸部手術操作による嚥下機能の低下のために肺炎が高頻度に起こります。
 

 そのため,患者は術前に必ず歯科受診し,歯科医師に口腔内トラブルがないかチェックしてもらい,歯科衛生士から専門的口腔清掃とブラッシング指導を受けます。そして,患者自身で口腔ケアができように指導します。このように術前から口腔内衛生環境を整えておけば,術後の創部感染や肺炎発症率を減らすことが可能になります。

 

後治療に伴う口腔合併症への対処


 がん治療は,外科療法だけで終わらず,術後に追加治療として化学療法,放射線療法を行うケースが多くあります。治療により,患者は口腔粘膜炎,口腔乾燥,味覚障害などの口腔合併症に悩まされます。いずれも治療中から発症し,放射線治療の場合,口腔粘膜炎は1か月程度,味覚障害は4か月程度で治癒します。

 

放射線治療では口腔乾燥の症状改善がきわめて困難

 しかし,唾液腺が照射野に入る放射線治療では,口腔乾燥の症状改善はきわめて困難になります。その結果,咀嚼困難や嚥下困難,味覚障害,会話のしにくさ,う蝕などが遷延するのです。口腔乾燥の対応としては,保湿剤やこまめな水分摂取による保湿と,滑らかで水分の多い食事にするなど対症療法しかありません。

 

「口から食べられるのに味がしない!」味覚障害の苦しみ

 味覚障害は,経口摂取が可能な患者にとって重大な問題です。「味がしない」「砂を食べているみたい」「苦い」など,それまでおいしく食べられていたものの味を感じない,または違う味に感じたりします。味覚は,味物質が唾液中に溶け,味蕾に到達します。味蕾で感知された信号は鼓索神経,舌咽神経によって脳に伝わり,味として感じられます。
 

 抗がん剤や放射線の影響で,味蕾細胞がダメージを受けたり,抗がん剤により亜鉛などの微量元素の吸収障害が起きたり,末梢神経障害などにより起こると考えられています。結局,対症療法が中心となるので,栄養士の協力も得て,だしや風味を利用して味にアクセントをつける,強く感じる味を避けるなど個別に対応していくことが必要です。

 

がん治療における嚥下リハビリテーション――頭頸部がん患者への支援も急務

 

 頭頸部がんや食道がんの治療を受ける患者のもう一つの問題として,嚥下障害があります。
 

 手術の場合は,温存機能を活かした嚥下訓練が中心となります。化学療法や放射線療法の場合は,前述した口腔乾燥も要因の一つになりますが,照射部位の血流障害による筋組織の線維化や照射後の浮腫により,嚥下反射の遅延や嚥下運動の低下により嚥下障害が起こります。
 頭頸部がん化学放射線療法後の誤嚥の問題は,あまり重要視されていませんが,今後患者は増加することが予測されており,摂食・嚥下リハビリテーションなしに,この治療は成立しないといえます。

 

多職種による支持療法が急務――治療成績にも影響 

 

 がん外科療法において,肺炎や口腔合併症,嚥下障害は,入院期間延長や患者QOL低下につながります,場合によっては,がん治療の治療成績にも影響を及ぼすと考えられています。苦痛を少なく,上手にがんを治すために,私たちは,口腔ケアや疼痛管理,嚥下ケア,栄養管理といったさまざまな問題を,多くの職種と協働しなければ解決を図ることができないと考えます。


 

【関連情報】妻木さんが講師を務めるナースを対象にしたセミナーが開催されます!
 本稿の著者,妻木浩美さんをはじめ,静岡県立静岡がんセンターにおいて,チームでがん患者のオーラルマネジメントにかかわる医療者を講師に招いたセミナーが11月20日(日)に東京で開催されます。
 最新のエビデンス,病態生理など基本的知識と,患者への教育を含めた詳しい実践方法が理解できるセミナーです。がん治療に携わる皆さま,ぜひご参加を!(以下は,予定されている妻木さんのご講演内容です。全体概要,申し込み方法は文末のURLにアクセスしてください)

 

「がん外科療法を支える口腔ケア」

・がん治療における口腔ケアの目的

・外科療法後の治療(頭頸部がん患者の場合)

・後治療に伴う口腔合併症への対応   

 ①口腔粘膜炎 ②口腔乾燥 ③味覚障害

・がん治療における嚥下リハビリテーション

・栄養管理

http://www.radionikkei.jp/news/event/entry-207464.html
 

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