かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2011.10.05 update.
中島 和子(静岡県立静岡がんセンター がん化学療法看護認定看護師)
30〜40%の割合で発生するといわれる化学療法によるがん患者の口腔粘膜障害。看護師は患者の症状体験を丁寧に聴きとり,患者とともに発現の予兆をモニタリングして,予兆が出現したら早期に対処が開始できるようセルフケアを促進していく役割があります。
セルフケアによって口腔粘膜炎の発現や重症化の予防ができれば,治療の継続,最大限の治療効果の獲得につながるうえ,なにより食べるという人間にとっての基本的欲求である生きるうえでの楽しみの保持につながります。
患者自らがコントロール感をもって,化学療法に主体的に参加できるようになるためにも,看護師が口腔ケアの最新の知識と技術を学び,支援を続けていく必要があるのです。
本稿ではがん患者への口腔ケアの基本的知識について解説します。
*文末に中島さんが講師を務めるセミナー情報を掲載しています。
化学療法による口腔粘膜障害(口腔粘膜炎)は,重症度はさまざまですが,30~40%の割合で発現するといわれています。看護師は患者指導を行うにあたり,口腔粘膜炎のリスク因子として,その発現頻度の高い抗がん剤の使用の有無や,患者側のリスク因子として口腔の衛生状態(齲歯,歯周病,義歯不適合,歯磨き習慣など),免疫能の状態(ステロイドの使用,糖尿病,高齢者など),栄養状態,放射線治療の併用の有無,喫煙の有無などを確認し,治療前から口腔粘膜炎のリスクを予測した視点をもつことが重要です。
特に外来で化学療法を受ける患者は,自ら口腔内の観察を行い,口腔粘膜炎の予防や口腔粘膜炎が発現した時にはその重症化を予防するために症状マネジメントを行いながら,自宅でセルフケアを実践していく必要があります。
セルフケアを患者が獲得するためには,患者個々のセルフケア能力や日常生活に合わせた知識を提供し,口腔ケアの技術については患者自らがその方法を自己決定して実践していけるように支援することが必要です。そして,経過の中で症状の変化とセルフケア方法を評価し,状態に合わせてその方法を変化させていくマネジメント能力を高めていけるように,患者をサポートしていくことが看護師の重要な役割となっていきます。
口腔粘膜炎は,重症化すると口腔内の疼痛によって,セルフケアが困難となり,口腔内の炎症がさらに進行し,骨髄抑制の時期においては敗血症の原因となることもあります。口腔粘膜炎が発生した場合,疼痛コントロールをはかり,口腔内の保湿と清潔保持に努めていけるように,患者の状態に応じて,セルフケアの方法を検討していく必要があります。その際に,患者のセルフケアだけで対応可能であるのか,口腔外科医師や歯科衛生士などの専門家の協力が必要であるのか,口腔粘膜炎の経過を踏まえて,検討することが重要となってきます。施設内に歯科医師や歯科衛生士がいない場合は,どのように対応するのかについても,地域連携など準備が必要となっていきます。
セルフケア支援は,それによって口腔粘膜炎の発現や重症化の予防ができたならば,より効果的な治療(減量や休薬をしないで最大限の治療の効果を期待)を継続していく一助となり,かつ,食べるという人間にとっての基本的欲求である生きるうえでの楽しみの保持につながります。そのため患者のQOLに欠かすことのできない重要なケアであることは間違いありません。
看護師は患者の口腔粘膜炎による症状体験を丁寧に聴きとり,患者とともにその発現の予兆をモニタリングして,その予兆が始まったら早期に対処が開始できるようセルフケアを促進していく役割があります。さらに,患者自身がコントロール感を抱きつつ,化学療法に参加できるように,私たち看護師も口腔ケアにおける適切な支援のために,最新の知識と技術を学び続けていく必要があります。
【関連情報】中島さんが講師を務めるセミナーが開催されます!
本稿の著者,中島 和子さん,協働する大田洋二郎医師(歯科口腔外科部長)をはじめ静岡県立静岡がんセンターにおいて,チームでがん患者のオーラルマネジメントにかかわる医療者を講師に招いたセミナーが10月16日(日)に東京で開催されます。病態など基本的知識と,患者への教育を含めた詳しい実践方法が理解できるセミナーです。ぜひご参加を!