かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2011.5.20 update.
都立駒込病院感染症科医長・感染対策室長
著書に『JJNスペシャル82 感染症に強くなる 17日間菌トレブック』がある。
twitter始めました→@imamura_kansen
イラストレーション:櫻井輪子 http://www.wakonosu.net/
今、ヨーロッパで麻疹(はしか)が流行しています。そして日本でも関東から流行が拡大してきました。今回は、この麻疹についてお話しします。みなさんも正しい知識をつけておきましょう。
2007年にも10~20代を中心に成人麻疹(大人のはしか)が大流行しました。この時には、多くの麻疹の患者さんが入院してきました。感染症科の個室もなくなってしまい、麻疹の患者さんたちがいっしょに入る大部屋までつくるほどの状況でした。
そして、再び関東を中心に麻疹の患者数が増加しています。それに先立ち、欧州で麻疹の流行がはじまり、フランスを中心とした欧州33カ国で6500人以上という大流行になっていました(4月18日時点でのWHO報告) 今回の流行では、ヨーロッパからの輸入例も含まれているのが特徴となっています。
麻疹の潜伏期間は10日から12日程度といわれています。ゴールデンウイークに欧州へ渡航していた人は5月10日~5月20日頃に発症することになります。また、すでに発症しかけていた人が、この連休中に国内の様々なところに行った可能性もあります。連休があけて、また学校や会社などへ人が集まっています。しばらくは感染の広がりに注意していく必要があるでしょう。
麻疹の初期症状は風邪のよう
発症すると、最初は鼻水、のどの痛みなど、風邪のような症状がでてきます(カタル期といいます)。麻疹のウイルスは空気感染し、この時期にはすでに強い感染力があります。発疹がでてくる前から、交通機関、学校、会社などで広がっていくのです。なお、この頃より頬の内側の粘膜にコプリック斑と呼ばれる粘膜疹がみられ、薬疹などとの鑑別に参考となります。
コプリック斑:頬の裏側の粘膜に小麦粉のような白い粒が散在して見えます
そして高熱と発疹が出現
その後、高熱と発疹がでてきます。発疹は顔面から出現、さらに体幹から四肢へと広がっていきます。発疹が増加すると次第に一つ一つの発疹が拡大し隣接した発疹との境界がなくなり、全体が赤くなってきます。特に顔面は強い炎症でむくんだ状態になったりします。四肢の発疹がそのようになってきたら、そろそろ解熱期が近くなります。顔のむくみもなくなり、発疹も次第に色あせていきます。通常は10日程度で回復しますが、まれに脳炎や肺炎などの重篤な合併症の起こることがあります。
予防接種は2回必要
ワクチン接種によって体でつくられる免疫は、実際に麻疹にかかった場合よりも弱くなります。さらに接種後より何年も経過すると、やっとつくられた免疫も徐々に低下していってしまうのです。しかし、その力が残っているうちに再び同じワクチンによる刺激をあたえると、1回だけ打った場合よりもさらに免疫を強くすることができます。より確実に麻疹を防ぐためには予防接種を2回受けることが必要なのです。
当時の予防接種の問題
2007年に流行した年齢層の人たちは、幼少期に1回しか予防接種を受けていませんでした。また、予防接種への意識の低さから、接種しなかった人も多くいました。せっかく予防接種を受けても、1回打っただけでは十分な免疫がつくられない人がいます。また、最初は免疫がつくられても、その後徐々に低下してしまう人がいます。このような20~30歳代の成人が増加していたことが、当時の大流行の背景にあったのです。
日本は麻疹の輸出国だった
このように日本で大流行してしまった麻疹ですが、米国では年間に約100人程度の発症しかなく、そのほとんどが外国からの渡航者からの輸入例という状況でした。(日本が輸出国の第1位!)米国では以前より麻疹ワクチンは2回打ちで、接種率も高かったため、十分なコントロールが可能となっていたのです。
予防接種をしよう
現在は1歳と小学校入学時の2回の接種がすすめられています。前回流行した翌年の2008年からは、中学1年生・高校3年生に相当する年齢の人たちを対象に、追加の予防接種が始まっています(これは5年間続けられることになりました)。
はしか=麻疹、三日ばしか=風疹・・・本人は知らないし、母親の記憶もあいまい。成人麻疹の既往歴を調べるときには、母子手帳が頼みの綱となっています。予防接種は、保護者の方が責任をもってすすめることが大切なのです。
日常で出会う感染症、医療現場で出会う感染症、感染対策を読みやすい語り口でまとめた一冊。
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