かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2011.2.21 update.
「じ」じゃなくて、濁らない「し」の「なかしま」です。夫の転勤により各地の病院に勤務。九州大学医学部保健学科、聖マリア学院大学看護学部、東京警察病院看護部長を経て、2010年5月より東京病院副院長となりました。研究テーマは「働きがいのある組織づくり」で、働き方についての認識のパラダイムシフトを図る啓発活動を全国で展開中。
「すべては幸せにつながっている」「ケア提供者が幸せであることは質の高いケア提供を可能にする」という信念の下、日々仕事を楽しんでいる超positive思考の二児の母。
みっちゃんのブログ(http://ameblo.jp/tokyobyouin-director/)
ヒトは、必ず他者と関わりながら生きています。他者と関わることではじめて自己がみえてきます。そのとき、必ず生じるのが「評価」です。看護管理もつきつめればヒトとヒトとのかかわりであり、評価の問題はかかせません。
今回は、この「評価」について、2つのことを考えてみたいと思います。それは、評価の「目的」と「手段」です。何のために、そしてどのように評価するのか。この2つを理解するだけで、きっと「評価って、楽しい!」と考えられるようになると思います。
評価の目的、それは“キャリアプラトー”をつくらないこと
看護管理における評価の目的を一言で言うなら、それは「キャリアプラトーに陥らない組織づくり」です。
キャリアプラトーというのは、ある職業についている人が、成長や昇進のビジョンを描けない、停滞期に陥ってしまうこと。ライセンスをもったプロフェッショナルである看護職には本来無縁のはずなのですが、現実には、キャリアプラトーに陥る人は少なくありません。その最大の要因が、「評価」がうまくいっていないことにある、と私は考えています。
では、キャリアプラトーに陥らない組織づくりについて考えるために、逆に、「キャリアプラトーに陥りやすい組織」について考えてみましょう。その典型例が、縦向きの「職階」移動、いわゆる昇進=キャリアアップという考えに支配された組織です。
看護職の「職階」というのは、せいぜい、3つか4つです。主任(係長)、師長(課長)がメインで、後はそれに「副」がついたりするくらい。日本の場合、看護部長は組織に一人しかいませんし、副看護部長は組織の大きさにより1〜5人ですが、それも極々わずか一握りのポストでしかありません。
そもそも「職階を移動すること」と「キャリアアップ」は、看護職においては次元が異なる概念だと私は考えています。以前もお伝えしたと思いますが、スタッフ看護師、看護師長、看護部長の関係は本来、上下関係ではなく、お互いに対等なプロフェッショナルとしての関係にあります。スタッフはクリニカルケア、師長はマネジメント、看護部長はディレクションというそれぞれの役割をプロとして果たしてはじめて、プロといえると考えています。
そのように考えると、看護職におけるキャリアアップとは、職階間の異動(スタッフナースが師長になる)ではなく、むしろ、それぞれの職階のなかで求められる職能を高めることにある、といえないでしょうか。
現実には、主任→師長と職階を高めていくことを「キャリアアップ」と捉えている職場は少なくありません。しかし、そうした職場では、キャリアプラトーが不可避となってしまいます。なぜなら、主任や師長にならない看護師のほうが圧倒的に多いからです。
そうした「上昇コース」に乗らなかった自分を卑下し、職能を磨こうとせず、日々、業務をこなす、捌く……という“ケアロボット”化してしまっているスタッフは皆さんの施設にはいないでしょうか。「10年目の看護師向けの教育体制がないから」と組織のせいにしていても、モチベーションは下がる一方です。
こうしたキャリアプラトーに陥り、モチベーションの低下したスタッフの数が増えてくると、組織運営は非常に難しくなってきます。こうした悪循環に陥らないために必要なのが「評価」であり、その役割を担うのは多くの場合、師長です。
評価の手段、それは「強みを引き出す」ということ
では、そもそも「評価」って何なのでしょうか? 「善悪・美醜・優劣などの価値を判じ定めること」という辞書の定義に捉われていると、どうしても「あれができているから何点」「これができていないから×」といった視点で考えてしまいがちです。評価を受けるスタッフのほうも「評価」というと「何を注意されるんだろう?」というネガティヴなイメージで捉えているのではないかと思います。
「評価」についてこうしたネガティヴなイメージを持ってしまうと、冒頭に述べた「評価の目的」である、「キャリアプラトーを作らない」ことは達成できません。キャリアプラトーを作らない評価のためには、評価を通じて、「強み」を引き出していくことで、個々人の魅力を、能力を伸ばしていく必要があるのです。
「強み」というのはそもそも、自分ではなかなか気がつかないものです。ましてや、日本人は自己を卑下することで相手をたてるという「謙譲の美徳」という文化をもっています。自分のことをほめる、自慢できるところ(強み)を見出すという作業が不得手な文化のなかで育ってきています。でも、そんな私たちでも、他人から客観的に、優れた点をほめてもらうことができれば、自分の強みに気づき、認識することは可能です。
「評価」の第一歩は、相手をほめることです。ただ、これも口で言うほど簡単ではありません。「相手をほめる」ということだけでも、日本人は照れもあって、素直に口にしない傾向があります。しかし師長は、むしろ積極的に「ほめる」必要があることを十分に認識すべきといえます。できるだけスタッフのよいところを見つけ、フィードバックすることによって、相手に自分自身の強みに気づいてもらえるような関わりをもたなければいけません。
個々のスタッフが、それぞれの職階のなかで、強みを伸ばして職能を向上させていく。これが、専門職である看護職のキャリアアップの本来のあり方ですから、「評価」についても、強みを伸ばしていくために行います。わざわざ弱点やできていない部分を見つけ、それを改善しようとがんばるという一般的な評価のあり方からは、180度方向性を変える必要があるのです
余程の致命的な弱みでない限り、その弱みには目を向けず、「強みをさらに強くする」。このような「評価」を目的として行う面接を、看護管理では、「目標面接」「ラダー面接」といいます。笑い話ではありませんが、目標面接やラダー面接を取り入れて、かえってモチベーションが下がって離職者が増えた、という話も聞きますが、それでは本末転倒です。
目標面接、ラダー面接では、管理者の考え方を押し付けるのではなく、その人のモチベーションを引き出すことが重要です。自分の「強み」を伸ばすためには何をどうしたらいいかに自ら気づかせるような面接を心がけましょう。ついつい親心で「こうするといいんじゃないか」と言いたくなってしまう気持ちをぐっとこらえて、一緒に考えます。
正直なところ、こういった面接は師長さんとしては「面倒くさい」と感じる部分も大きいと思いますが(笑)、看護管理を行っていくうえでは手抜きをしてはいけない、大切なポイントです。
相手を、自分を輝かせるための「ほめ」
まとめてみましょう。評価の<目的>は「キャリアプラトー」をつくらないこと。そして、評価の<手段>は強みを引き出すことです。
すなわち「評価とは相手を輝かせるための積極的な支援」です。この視点からみて、皆さんは、これまで、きちんと「評価」できていたといえるでしょうか。
相手の強みを引き出す「ほめ」には、いろんなポイントがあります。ひとつは、具体的な事象をもって相手をほめること。ただ漠然と「がんばってるね」とほめていたのでは、相手は「師長さんは自分の何を見てそう評価するのだろうか? ちゃんとみてくれているのだろうか?」と疑心暗鬼になってしまいます。
小さなことでもよいので、具体的な日付や状況とともにほめることで、相手は「あ〜、あのときのあのことをほめてくれたのか」と、自分自身の行動をリフレクションすることができます。そうすると、自己肯定感や自己効力感にもつながり、スタッフが自分のよいといころを見つける作業がしやすくなります。
こうした具体的な場面をほめる(評価する)ためには、メモを取っておくのがお勧めです。メモは誰に読ませるわけでもないので、どんな形式でもOKです。たとえば筆者は「12/21 ○○、20:30△△Uカバー」といったメモのとりかたをしています。
なんのことか、まったくわかりませんよね。でも、これでも書いた本人には日付、場所、対象の看護師、時間、対象患者、そしてほめる内容がわかります。「Uカバー」というのがほめたいと思った内容ですが、○○さんが、尿器カバーが汚れていたのをちゃんと患者の△△さんに詫び、きれいなものに換えるという細かな気くばりを見せていたことを、12月21日の20:30頃に目撃したのです。メモした本人であれば、この程度の簡単な記載でも簡単に思い出すことができます。
筆者の場合、副院長という立場上、なかなか普段からスタッフとじっくり面接するということがないため、余計に情報を溜めておく必要があります。もしも、あなたがそのつどリアルタイムに「ほめ」によってフィードバックできているのであれば、メモは必要ないかもしれませんね。
他者評価を自己評価に応用
ここでさらに発展して、相手を評価するということだけでなく、自己評価という言葉についても考えてみてください。他者評価と同じような表現をするとすれば、「自己評価とは自己を輝かせるための積極的な支援」ということになります。
「謙譲の美徳」もよいのですが、専門職である私たちは、自らの「職能」については、「けっこうやるじゃん、私!」と素直に感じ、自分を褒めるということを行ってもよいと私は思います。そう、師長自身が、もっと自分自身について自分のよいところをほめるという作業を通じて、自分の強みを認識し、さらにはその強みを伸ばしていくということに慣れてもらうことも大切なのです。そうすることによって、より、他者についても日常的にほめるということにつながるからです。
いきなり「強み」といわれても・・・という方、今日から毎日一つでいいです。自分のいいところを紙に書きだしてみてください。なんでもいいんです。
仕事のことだけでなくても、何でもいいのです。「素敵なところを見つける」という思考回路を育てるところから始めてみましょう! 365日で365個、自分のよいところを見つけてみてください。「へ?私って案外いいところあるじゃん!」と思えるようになってきたら、「できる師長」への第一歩です。