かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-

2025.11.28 update.
セバスチャン・ブロショ(Sébastien BROCHOT)
性暴力予防の専門家として,フランスの国立性暴力予防機関クリアヴスに勤務しながら,子どもや青少年に対する性暴力と闘う児童保護団体「Association Une Vie」を運営。「子どもの性的搾取および虐待からの保護を目的とする欧州評議会」のランザローテ委員会、「未成年者への性犯罪予防」に関するフランス上院の情報ミッション、「未成年者の売春問題」に関するフランスの省庁横断ワーキンググループ、「サイバー性暴力対策に関連する欧州委員会」などに専門家として参加した。
●セバスチャン・ブロショ 日本語版ウェブサイト
●YouTubeチャンネル「Preventorium」
●子どもに性加害をしてしまうかもしれないと感じる人のための支援ウェブサイト 「PedoHelp」
安發明子(あわ あきこ)
人間科学博士(社会学)。 フランスで子どもと家庭の福祉を研究する。
著書/『一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族』
翻訳書/『ターラの夢見た家族生活 親子をまるごと支えるフランスの在宅教育支援』,『NO!といえるようになるための絵本]』
●安發明子公式ホームページ
清水幹子(しみず みきこ:性の伝道師 助産師ミッキー)
TreechildLLC.代表。助産師,日本版性暴力対応看護師(SANE-J)。東京都助産師会理事,生と性を語るエドゥケーター(東京都助産師会認定)。筑波大学大学院 博士後期課程所属。
大学病院の救急救命センターの看護師を経て,助産師となる。現在は,中野にある松が丘助産院で助産師をする傍ら,筑波大学大学院にてセクシュアリティや性教育について研究する。
●助産師ミッキー Instagram
性の悩み,困りごと,つらさ。それは,人間が成長する上で,多かれ少なかれ誰しもが持つ普遍的な問題となると言っていい。
いま社会問題化している性の問題について,戦い続ける,熱き助産師たちがいる。日本が真のSRHRを実現する日まで,そんな助産師にコミットし,次世代に性の課題を持ち越さない,そんなミッションを実現していきたい!! これはそんな連載である。(助産師ミッキーこと,清水幹子)
2025年8月16日~20日に,研修会「エデュケーターから学ぶフランスの子ども家庭福祉」が開催されました。講師にフランスの家族ソーシャルワークや性暴力予防のスペシャリストをお呼びした,5日間に及ぶ研修会でした。その講師であり,今回ミッキーが取材したセバスチャン・ブロショさんは,フランスの各県に設置されている国立性暴力予防機関クリアヴスの研修講師で,教育分野、司法分野、警察、児童相談所で予防教育を行うスペシャリストです。フランスの子ども家庭福祉を研究し,同研修会の企画と通訳を務められた安發明子さんのお二人にお話を聞きました。
ミッキー セバスチャンさんは,フランスの性暴力予防の専門家でいらっしゃいます。日本では,性暴力予防という分野は発展途上にあると考えています。性暴力予防に関連した質問をいくつかさせてください。安發さんにも,日本の現状とフランスの現状を対比して,ご意見を伺いたいと思っています。
セバスチャン・安發 はい。よろしくお願いします。
ミッキー フランスの性暴力予防という観点は,「加害者を作らない」「被害者を作らない」という両輪でなされていて,とても参考になる視点だと思いました。日本の性暴力予防はまだ発展途上であり,両輪での予防という政策はありません。例えば,小学校などでは「いかのおすし」「はちみつじまん」などの標語*1を子どもたちに伝え,被害に遭いそうになったらどうやって回避するかという視点で伝えていくことが多いように感じています。
一方でフランスの性暴力予防は自分と他者を尊重することから始まっていきますよね。安發さんのお話や著書で,フランスの人間教育は,"読み""書き""計算""他者尊重"というのを聞きました。他者尊重というのは,まず自らがどうしたいか,どうされたら嫌なのか,YESが何で,NOが何なのかわからなければ,できません。日本では,まずは他人に迷惑かけないように,集団での行動や意思に重きを置きがちです。
フランスでは,自分は,どうしたいのか。そして,何がYESで,何がNOなのか。しっかり自分自身の声を聴けるようになって,大人と話し合い思考する練習をして,そして,自分と同じように他者を尊重していくことの重要性を実生活や体験で身に付けていくようです。日本の子どもたちにもそのような体験や教育が必要に感じました。
セバスチャン フランスでは子どもを自分の意思を自分で持ち、表現する一人の個人であると考えます。
安發 フランスでは赤ちゃんの頃から,周りの大人に一人の人間として扱われます。赤ちゃんも,社会的に人権を行使する存在であると考えるのです。例えば私の子どもは,産まれたその日に,助産師から「あなたのママは出産でとても疲れているのよ,ママをゆっくり寝かせてあげてね。もし何かあったら,私を呼ぶのよ」と声をかけられていました。生まれてすぐの赤ちゃんでも、赤ちゃんに関することはまず赤ちゃんに説明してから親に説明することが印象的でした。
ミッキー 生まれてすぐの赤ちゃんから一人の人間として尊重し,人権を行使する存在として扱っていくことで,子どもたちは日々の生活から自分の身体と心を尊重されて当たり前という環境で育っていくんですね。そうすることで,性加害をしてくる大人などに対して,「おかしい」「尊重されていない」と感じるようになり,それが被害を防ぐことになります。日本とは,まずベースが全然違うんですね。
安發 そう,フランスでは"NO"ということの大切さを生まれたときから伝えています。例えば子どもが学校に行けなくなったとき,「子どもが調子が悪いときは一緒に解決する」という考え方で,専門職や教員,子どもに関わる大人たちが,その子がその子らしく"開花"していくためには何が必要なのか考えていきます。

ミッキー 日本では,学校に行けないのは,本人や家庭環境のためと考えがちです。問題が起きると「自己責任」と言われたり,家庭の責任が問われたりします。フランスのお話を聞くと,支援者はもちろん,国・政治が,困った状況にある子どもや家庭の課題解決の責任を担っているように思えます。支援する側の立ち位置が違うのは,たいへん大きいことだと思います。
ミッキー フランスの考え方で印象的だったのは,子どもが性的な探求心や欲求を持つようになるのは,成長の過程で当然であり,自然なことであると社会がしっかり認めていることです。この「認める」ということが,たいへん重要に思います。
その上で,こどもたちにどうアプローチしていくかを学術的に発展させていましたね。子どもの年齢別に「成長過程に応じた性の探求行動」なのか,「心配な行動」なのか,「性的問題行動」なのかを年齢別に規定しています。
ミッキー フランスでは,この指針をさまざまな専門職が共通して使うことで,丁寧で柔軟で,適切で効果的な対応をできるシステムが整っているそうですね。保育士や学校の教員など子どもに関わる職種はもちろん,専門職であるエデュケーターや弁護士・医師などもこの指針に関する研修を受けることを求められる。また地域住民もこの指針の研修を受けることができて,大人の共通の認識となっているそうですね。そのことによって,加害も被害も深刻になる前に支援やケアの対象になる。そして,本当に心配が消えて,その子らしく開花できるまで,伴走し続け,大人になってもつながっていくことも多いそうですね。日本にもさまざまな対策はあるものの,誰につながるか,どの地域かによって,支援の体制は異なってきます。
セバスチャン 日本では「友達親子」「親子でデート」などの言葉があるなど,「近親姦的」な家族もあり,それを疑問視されていないように感じます。親密さが無批判にされたままでいると,子どもは大人に性的に扱われていても,気が付かなかったり,また大人は子どもが望んでそう(性的な行為を)していたと考えてしまう大人もいるでしょう。
ミッキー 確かにそうですね。日本では「大きくなったら,パパと結婚する/ママと結婚する」と子どもに言われて喜ぶという話もたまに聞きます。
安發 日本にはあまりない考え方ですが,フランスではこの「近親姦的」という視点がすごく浸透しているように思います。近親姦的というのは,子どもに対して親による感情的侵入があり子どもを個として認めていない状況で,子どもには発言させず,親が全部決定し,子どもが自分で決められないことなども含まれています。フランスでは家庭でも学校でも,大人が子どもに「あなたはどうしたいの?」「あなたはどう思うの?」とよく問います。例えば病院でも,日本では子どもはほとんど話さず,保護者が医療者と話しますよね。フランスでは,医療者はまず子どもに,「どうしたのか」「どうしたいのか」を聞きます。
ミッキー なるほど。たしかに私も,小児科でも保育園でも子ども自身に意見を聞かれた記憶はなく,いつも保育士や医師と話すのは親でした。それに保育園では,トイレの扉を閉めないで入るように指導していたりします。きっと事故予防とか,目を離さないために言っているのでしょうけど,子どもの性を「プライベートなこと」として扱うことが徹底はされていません。
安發 幼い頃から,自分の身体をどう大人に扱われてきたのかは,とても重要ではないでしょうか。それが他者尊重にもつながってきます。
セバスチャン 「子どもに対して近親姦的な関わりをしない」という考え方は,日本ではあまり馴染まない部分があるかもしれなせんが,どんな大人にも,親にも,子どもが一人の人として尊厳ある関わりをされること,そして,子どもが一人の人間として,自らの人間性を開花させて生活する権利や尊厳を尊重されることで,性暴力の予防や性加害の予防につながっていくと考えています。
ミッキー 日本でも,子どもは人権を行使する一人の人間であり,性的に発展していく存在であると認めて,性的に心配な行動や様子について教育現場や医療現場,子どもたちに関わる職種に広がっていったら,性被害や性暴力で苦しむ人がいなくなるかもしれません。
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ミッキー 性暴力を防ぐためには性教育が重要だと思いますが,日本の性教育には,性交について取り扱わないという「歯止め規定」があるんです。私も性教育の出前講師として,プライベートゾーン(水着で隠れる部分),ボディオートノミー(身体の自己決定権),また,バウンダリー(身体の境界線)などについてはお話ししますが,性交について話せないです。そのため,幼いうちに性暴力にあったお子さんは,何が起きているのか分からず,被害を訴えるのが遅れてしまうなどの報道もあります。
一方で,コンビニエンスストアには性的な表現が溢れた雑誌が置いてあったり,都市部には性産業も街に溢れていたりと,性的な情報を子どもが目にする機会が多くあります。
安發 性的同意という言葉に関しても,日本では「性」をつけると小中学校では教えられないと聞いたことがあります。教育現場では,「性」は特にセンシティブに取り扱われていますよね。
ミッキー 学校によっても違いますが,性教育として学校内で授業として話す際に,「性的」や「性交」など,性という言葉を使うのにも許可が必要な場合があります。
日本では,2000年代に「性教育バッシング」が起こり,「寝た子を起こすな」という言葉とセットで一気に日本中に広がりました*2。これが教育現場の委縮を招き,ますます子どもへの性被害・性暴力が見えにくくなってしまう状況に追い込まれてきたのではないでしょうか。
フランスでは,性教育を行う上で,性暴力予防の観点からどのように子どもたちに伝えていますか?
セバスチャン フランスでも性交について直接的な内容を子どもたちに教えることは,あまりしません。ただ,国のホームページで「初めて性交する人へ」という動画があって,誰でも見ることができます。このページでは,初めて性交するときにどんな気持ちになることがあるか,お互いどんなことを気遣うとよいかや,無理に最後までしなくてよいとか,初めて性交したらどんなことが心配になるかなど発信しています。恋人と初めて性交する前に見て,お互い話し合ったり,どうするか考えたり,性交する前にお互いの気持ちを確認し合ったりするためのきっかけのページになっているんです。
安發 日本でいうと厚生労働省やこども家庭庁などと同等の国の機関のホームページに,誰でも観ることのできるかたちで載っています。特に大事なのは、性に関する疑問をインターネットに入力するとこのような正式な情報が出るので,危険性の高い情報に触れにくいように工夫されていることです。お子さんに好きな人ができると,親と子どもとで一緒に観て,親子で会話ができるように作られています。
ミッキー 性交の実際など直接的なことを伝えなくても,お互いを気遣うことができたり,一旦立ち止まって考えられたりすることって,すごく大切ですね。大人もそれを知っているのはたいへん重要ですね。
セバスチャン そうなんですよ。フランスの調査で,実に半数以上は初めての性交で,男性は「女性に申し訳ないから,頑張った」,女性は「男性に求められたから,応じた」という統計があります。この統計から,初めはみんな不安で,心配なことがあっても,「今日はやっぱりやめよう」と言い出せないことが考えられます。なので,初めての性体験のときには,お互いコミュニケーションして,途中でやめるという気持ちになってもいいし,またチャンスはあるし,急がなくてもいいと思えるように,性交そのものは伝えなくても性交で起こり得る心理面の変化を,自分の立場と相手の立場で考えられるような動画をさまざまな内容で発信しています。
ミッキー そのような内容が国のホームページにあることで,子どもから大人まで安心して観ることができますね。
セバスチャン ミッキーさんも,日本で子どもたちが開花できるような動画や発信をしてください。日本の子どもたちに足りないものを知っているあなたならできる!
ミッキー ひえーーそうですか💦 どうしていったらいいのか分かりませんが,またセバスチャンさんに相談して,できることをしていきたいです! まずはこのインタビューをまとめます!
安發 日本ではいろいろなコンテンツはあるものの,まとまってはありませんね。助産師会などの公的なところで,まとまったコンテンツがあると,とても見やすいと思います。
ミッキー 確かに! 助産師会のホームページなどでそういうコンテンツがあったら,親御さんも安心して子どもたちに見せることができるかもしれませんね!
ミッキーの挑戦は続くのであった......
(2025年8月20日取材)
注
*1 いかのおすし:「いか」・・・しらないひとにはついて「いか」ない,「の」・・・こえをかけられても,くるまには「の」らない,「お」・・・しらないひとにつれていかれそうになったら「お」おきなこえをだす,「す」・・・こえをかけられたり,おいかけられたりしたら「す」ぐににげる,「し」・・・こわいことにあったりみたりしたら,すぐにおとなに「し」らせる。
はちみつじまん:しつこくなにかと「は」なしかける人,理由もないのに「ち」かづいてくる人,あなたがくるのを道のはしでじっと「み」つめてくる人,いつでも,どこまでも,いつまでも「つ」いてくる人,あなたがくるのを「じ」っと「ま」ってる人,こういう人に会ったら「ん」?っと注意。警視庁のHPにて,防犯の啓発のために発信されている。
*2 性教育バッシング
2002 年 5 月 29 日の衆議院文部科学委員会にて山谷えり子衆議院議員が行った,中学生向け教材「思春期のためのラブ&ボディBOOK」に関する質問に端を発する,性教育批判キャンペーン。各地方議会でも同様の批判が展開され,同教材は回収され絶版となった。2003年7月2日の都議会では土屋たかゆき都議会議員によって東京都立七生養護学校における性教育に関する批判的な質問が行われ,直後に都教育委員会により同校の教材が回収された。さらに七生養護学校の教員を含む 102 人の東京都内の学校教員が性教育を理由に処分される事態となった。