第1回 「ユースウエルネスKuKuNa」ってなんだ?

第1回 「ユースウエルネスKuKuNa」ってなんだ?

2024.11.29 update.

対談者プロフィール

幸崎若菜(こうさき わかな)
助産師,日本版性暴力対応看護師(SANE-J),思春期保健相談士。
助産師として,2004年より国立成育医療研究センター勤務。2005年8月より現職の医療法人社団向日葵会まつしま病院に勤務する。病院勤務と並行して,2011年より日本家族計画協会にて思春期相談やOC/EC(経口避妊薬/緊急避妊薬)の相談に従事。2019年4月〜2020年3月高知県立大学看護学部で助教として勤務後,同年4月にまつしま病院に復帰し,現在に至る。


清水幹子(しみず みきこ)
助産師,日本版性暴力対応看護師(SANE-J)。東京都助産師会理事,生と性を語るエドゥケーター(東京都助産師会認定)。筑波大学大学院 博士後期課程所属。
大学病院の救急救命センターの看護師を経て,助産師となる。2023年まで東京都国分寺市の矢島助産院に勤務する傍ら,筑波大学大学院にてセクシュアリティや性教育について研究する。

性の悩み,困りごと,つらさ。それは,人間が成長する上で,多かれ少なかれ誰しもが持つ普遍的な問題となると言っていい。

いま社会問題化している性の問題について,戦い続ける,熱き助産師たちがいる。日本が真のSRHRを実現する日まで,そんな助産師にコミットし,次世代に性の課題を持ち越さない,そんなミッションを実現していきたい!! これはそんな連載である。(助産師ミッキーこと,清水幹子)


KuKuNaの看板の前に立つ幸崎若菜さん

子どもや若者が気軽に来て,自分のセクシュアリティやパートナーシップ,セックスや避妊,感染症などについて無料で相談できる場所として,北欧などにある「ユースクリニック」が知られています。日本でも産婦人科診療所などで少しずつ取り組みが始まっています。そのうちのひとつ,「ユースウエルネスKuKuNa」は,東京都江戸川区にある「医療法人社団向日葵会 まつしま病院」の別館にあります。立ち上げから関わり室長を務める幸崎若菜さんに,助産師ミッキーがお話を伺ってきました(この記事は全2回中の1回目。2回目はこちら)。


ユースウエルネスKuKuNaとは?


幸崎 ユースウエルネスKuKuNaは,スウェーデンなどにあるユースクリニックをモデルにした施設です。スウェーデンには,国の予算で国内に250カ所ほど,若者が相談できる場所を設置しているそうです。そこには産婦人科医や助産師,カウンセラーなどいろいろな職種が常駐していて,子どもや若者は無料で月経など自分のからだのことやセクシュアリティについて相談することができ,避妊薬や緊急避妊薬も無料または安価で入手することができます。そういう場所が日本にも必要だと思っていたところ、勤務先の「まつしま病院」で別館を改築するときに,「当院にもそのような施設を作ろう」ということになり、責任者を拝命しました。「まつしま病院ANNEX」の2階にあり,同じ建物内に病児保育施設があります。

スタッフは私を入れて6名で,助産師は私のほかに2名,看護師1名,社会福祉士2名です。看護職は全員,思春期保健相談士の研修を受けています。私もスタッフも,普段は産科入院棟や支援外来(社会的ハイリスク妊婦のための外来)などまつしま病院で勤務をしており,KuKuNaがオープンしている日にはこちらに来るという体制です。オープン中は,私を入れて,最低でも3名程度がKuKuNaにいます。


KuKuNaの玄関を入ると、すぐ受付がある


KuKuNaには3つの機能があります。1つ目は,オープンユース。KuKuNaを子ども・若者のために無料開放し,「街の保健室」として,利用してもらうことです。まずはKuKuNaに来てもらって,過ごしてもらい,私たちスタッフや場所に慣れ,何らかの困りごとや悩みごとがあれば,「KuKuNaで相談しよう!」という居場所になれたらと思っています。

オープンユースは,毎月24回程度で,誰でも予約なしで利用できます。主な対象として小学生から25歳くらいまでの若者を想定していますが,もっと小さい子や,彼氏を連れてくる子もいます。

2つ目の機能は個別相談,子どもだけで相談できます。こちらは予約制で有料ですが,500円で利用できます。生きていく上でいろいろなことに迷ったり困ったり,躓いたりするときに,誰かに頼ることは大事なスキルです。でも今の社会は頼るスキルや相談するスキルをほとんど教えていないから,KuKuNaがそれを学ぶ場所にもなればいいと思っているんです。

 そして3つ目の機能として,助産師・看護師や教師・福祉職などの子どもに関わる専門職に向けた勉強会を行ったり,外部講師として性教育に関する講演に出向いたりしています。子どもたちの育つ環境を変えるためには,大人が変わらなければいけません。そのために,保護者や支援者,地域の人や学校関係者など,大人を教育するための機会が必要なのです。



本棚には,幸崎さんたちが選んだからだや心,セクシュアリティに関わる本がたくさん並んでいる

子どもの居場所であり,話ができる場所

 

清水 性教育をしたり相談を受けたりするよりも,まず「居場所」が一番に来るんですね。

幸崎 そうなんです。まつしま病院は,スタッフが全員女性で,性暴力被害に遭った女性や社会経済的に困難な状況にある女性など,困りごとを持つ女性の支援に努めてきた医療機関です。地域の女性たちの生活の背景に根差した相談を常々受けてきたので,相談されることに対するキャパシティ,経験やスキルが蓄積されている施設だと思っています。でも,「相談しよう」と思ってもらわないことには,何も始まりませんよね。

だがら,KuKuNaは,子どもたちに無料で使ってもらい,「ここには医療の専門家がいる」「ここにいる大人は話しやすい」という関係を築いた上で,身近なことについて「ちょっと聞いてみようかな」っていうところから始まって,彼女たちが生きていく中でふっと悩みが出てきたときに,「ここの人に相談してみよう」というふうに思える,そんな形を目指しています。相談することのハードルをいかに下げられるかが肝心だと思っています。焦って「さあ相談してください!」ってガンガン行く感じではないんです。

 今の時代,家庭では経済的にも精神的にも余裕がない親御さんが増えています。学校は学校でルールがあって自由にできなかったり,先生方の労働時間の問題もあったりして,子どもの困りごとを受け止める場所ではなくなってきているんです。そうすると子どもは自分の殻にこもってしまうばかり。だから子どもの気持ちに寄り添う場所を,医療の専門職がつくるのもいいんじゃないでしょうか。そうすることで,その子の可能性を伸ばすことができるんじゃないかと思っています。

清水 なるほど。KuKuNaに来る子どもたちは,どんなふうにここの情報を知るんですか?

幸崎 開設前からいろいろなところに挨拶に行って,学校・児童館にチラシを置いてもらいました。ほかにはSNSを見てくれたり,まつしま病院の小児科や思春期外来から紹介されたりと,いろいろですね。

 オープンユースに来る子どもたちは,お菓子を食べたり,おしゃべりをしたりゲームをしたり,勉強したり,置いてある本を読んだりと,それぞれ自由に過ごします。私たちも一緒におしゃべりしたり,体操に興味があると言っている子がいたら一緒に体操したりして過ごします。月経カップなどの衛生用品や避妊具,子宮の模型なども設置してありますが,子どもがそれに興味を持って聞いてこない限りは,特にこちらからそれについて教えたり見せたりはしませんね。



さまざまな月経グッズや避妊具、子宮の模型など

 

小さい子どもも抱える「生きづらさ」

 

清水 2つ目の機能は、子どもや若者のためのワンコイン個別相談ですね。「相談するスキル」を学ぶという考え方が興味深いです。日本の教育や文化では,「人に迷惑をかけないように」とか,最近では「自己責任」などの言葉も聞かれます。だから子どもたちは,「相談してください」って言われても,何を相談したらいいのか,きっと分からないのでしょうね。

幸崎 困ったときに,自分で解決できる人はもちろんいいんですけど,どんな情報を使って解決していくかは本当に人ぞれぞれです。そして中には,間違った情報を手にとる人もいます。そんなふうに子どもが間違った情報からアクションを起こして,期待していなかった結果につながってしまう例を,私たちはたくさん経験してきました。厳しい結果に直面して,どうしてこうなったんだろうと巻き戻して考えると,やっぱり正しい知識を持つことと,信頼の置ける人に相談することが必要だと気が付いたんです。ただ相談すればいいわけではなく,信頼の置ける人に相談できるということが,相談するスキルだと思っています。

清水 相談するスキルとは,相談すべきことなのか,また,誰に相談するか,そして,その内容を自分自身でどう選択できるかまで,知ることなんですね。

幸崎 そうなんです。何を相談していいか,そもそもこれは相談するべき内容なのか,ということは,大人でも悩むことがあります。病院で大人から相談を受けていても,「こんなことも話していいんですね」と言われることが日常的にあります。

清水 何を相談していいか分からないということは,やはり性の相談だけではないということなんですね。その前に,すでに何かある。

幸崎 そういう時代なのかなあと思うんですけど,小学校低学年で不登校になっている子どもが来ることも,珍しくありません。KuKuNaを始めて一番驚いたのは,性の相談よりもむしろ,それ以前の,不登校やメンタルヘルスのような「子どもの生きづらさ」に関する相談が圧倒的に多かったということでした。

自分が小学1~2年生の頃は,「こんなことをされて嫌だった」程度はあったけれど,学校に行きたくなくなったりはしなかった。でも今の子どもたちには,そう思うようなことが日常の中で起きているっていうことに,危機感を持っています。


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清水 社会が変わりつつありますよね。

幸崎 繊細な子どもが増えたとは感じています。親や先生に話せないことがある子どもが,昔以上に増えたんじゃないでしょうか。SNSを使うから,人目のないところで行われるやりとりがものすごく多いんです。友達関係も,昔と比べると今は微妙に見えませんか。

清水 友達からの評価というか,「立ち位置」みたいなことをすごく気にしますよね。昔は放課後になれば学校での関係は終わりだったけれど,今は家に帰ってもSNSでずっとつながっているし,しかも裏でいろいろ言われていることも見えてしまう。

幸崎 本当に心を開ける人が誰もいないんじゃないでしょうか。「こう思われたら嫌だな」「自分が下に見られる」というように他者からの評価や見え方を気にして,弱音や本音を言えない。

清水 「これを言ったら友達が泣いちゃったから,もう言わないほうがいいのかな」なんて,小学校中学年の子どもが言いますからね。私たちの子どもの頃にあった「ケンカして前より仲良くなった」っていう青春の物語は,もう夢物語みたいです。今はそのまま疎遠になったり,大人が入らないと仲直りができなかったりします。

幸崎 誰だって,自分にとっていいとか悪いとか,好きとか嫌いとかを感じていいわけだし,相手にもそれがあるから,お互いに尊重する。そういうことを社会として教えていないから,子どもが分からないのも当然ですよね。人によって境界線や距離感が違うということが教えられていないし,ものすごく距離をとってうわべだけの付き合いをするか,逆に密着してしまうか。密着するとかなり苦しくなってしまう子もいますが...。

清水 人間関係において,失敗したくない,傷付きたくないという思いを優先してしまうんですね。自分自身気持ちや意思には蓋をしていまい,何でも話せる気軽な人間関係の構築が難しくなってるのかもしれません。



ストレスや人間関係について、子ども向けの本が最近多く出版されている


 

「親以外の大人」が子どもに向き合う

 

幸崎 親子関係や家庭の環境も,昔とは全然違うのかもしれません。

清水 地域社会も違うんでしょうね。

幸崎 社会や地域のつながりがなくなっていて,親も煮詰まるんだと思います。大人の側に,親になる余裕がそもそもないし,親になっても「何かをしないといけない」という雰囲気の方が増えてきたような気がします。

清水 「何か」とは?

幸崎 「しつけ」というか,「こうしなくちゃいけない」「ああしなくちゃいけない」という意識が,親の中に強くあるように見えます。加えて,親に時間的・精神的余裕がないので,子どものペースに合わせてあげたり,子どもの気持ちを聞いてあげたりする余裕がないんです。もちろん,「ねばならない」にとらわれていない大人もいますが。

 社会全体が不寛容になった,寛容さがなくなったということが,よく言われますよね。 許容できる範囲が狭いから守りに入ってしまい,子どもにも制限をかけてしまう。それは子どもが生きづらくなりますよ。

清水 生きづらく感じてる子どもたち,多くなってきてると思います。夢や希望を持ちづらい。大人になることに不安を感じている。親も子どもたちとどう関わっていったらいいのか,悩みまくってます。

幸崎 KuKuNaに来る子どもたちを見ていると,「もっと親に構ってほしい」っていう気持ちがあるのが分かります。でも私たちも普段,妊婦さんや母親の支援をしていますから,「共働きでないと生活できない。子どもには時間が割けない」という親の事情も分かるんです。そこをどう折り合いをつけて話してあげればいいのかと,すごく悩みます。「もっとお母さんに話を聞いてほしい,そばにいてほしい」と上の子が思って不登校になっていて,でも母親は下の子が生まれたりして余裕がない,という例はよくあります。

清水 不登校になることによって,親との関係に関するSOSを出している感じですよね。

幸崎 そうですね。SOSを出していることに親も薄々勘づいているけど,どうしようもできないっていう家庭もあれば,まったくもって気付こうとしない家庭もある。私たちも遠回しに「あなたが受け止めるんですよ」って言うんですけど,気付かない。

そしてこういうことは母親だけの問題ではないはずなのに,KuKuNaに子どもを連れてくるのはやっぱり母親が多いです。「お父さんはどうですか?」って子どもに聞いても「お父さんとの関係はよくないです。厳しいから甘えたいと思わない」なんて返ってくる子もいます。両親で来ていても,夫婦で全く見解が異なり,子どもが困るのも無理ないなぁと感じることもあります。そういう子どもたちは放っておいたら「トー横」に行ってしまうかもしれない。

だから,親以外に子どもがほっとできる場所,頼れる場所,楽しいと思える場所があればいいなと思っていて,KuKuNaのオープンユースをそういう子どもたちに使ってほしいんです。親じゃなくても,ちゃんと自分に寄り添ってくれたり,向き合ってくれる大人がいると知ってほしいんです。


【連載第2回「自分の好き嫌いで決めていいし、自分の気持ちをいちばん大事にしていい」続く】

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『助産雑誌』78巻6号

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