舞台「ブレ恋!」で痛感した、医師と患者の溝

舞台「ブレ恋!」で痛感した、医師と患者の溝

2021.11.11 update.

SATOKO FOX(サトコ・フォックス) イメージ

SATOKO FOX(サトコ・フォックス)

明るく元気な放射線科医(乳腺の画像診断が専門)。
約10年大学病院に勤務後、研究留学で渡米し、アメリカ人と国際結婚。
カリフォルニアで2歳の女の子の子育て奮闘中。
女性が健康で幸せに人生をenjoyできるよう、さまざまな活動を行っています。

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活動の詳細は、下記のURLからご覧ください。
 https://lit.link/satokoofox
 FBグループ:Breasr awareness with joy Satoko
 Twitter&Instagram: @joy_satoko

 

3月に好評を博した、医療者必見の舞台がオンライン配信で帰ってきました!
役者はプロと乳がんサバイバーの方々。
そして、脚本は乳がんサバイバーの鹽野佐和子SARA(しおのさわこ・さら)さん
によるものです。
当事者の発信だからこそ、患者目線のリアルが学べます。
舞台「ブレ恋!」とご縁のあった放射線科医SATOKOさんによるレビューを現場で感じる想いと共にご紹介します。
春に観られなかった方は、この機会にお見逃しなく!

 

いろいろな気持ちが錯綜した舞台

 

 乳がんサバイバーの方が作った舞台「ブレストウォーズ 恋する標準治療!」(以下、ブレ恋!)を観ました。きっかけはピンクリボン月間のイベントで、私の乳がん検診のセミナーとセットで企画されたからです。

 

★聡子先生チラシ.jpeg

  

  (舞台「ブレストウォーズ」の配信申し込みは、本記事の下のリンクからどうぞ ↓ )

 

 知り合いの紹介で、「ブレ恋!」の歌の存在は知っていましたが、観るのは初めて。

 

 はて、この舞台、そもそも誰を対象にしているのでしょうか。

 同じく乳がんサバイバー? 患者の家族?

 乳がんになっていない一般の女性?

 はたまた医療従事者??

 

    (ここから、専門用語を歌にした本編の一部を動画でご覧いただけます

    

 乳がんサバイバーの方からは、確実に共感が得られるでしょう。

 一般の人が観るとどうでしょうか? 乳がんの勉強になる? 単純なエンターテイメントとしては、少し重そうな印象を受けます。

 

 医療従事者側からはどうでしょうか?

 私は医師として働き始めてから、医療ドラマをあまり観なくなりました。現実と違う部分も多く、ついつい突っ込みたくなって疲れてしまうので……(看護師さんはどうですか?)。

 

 紹介が遅れましたが、私は乳腺を専門とする放射線科医で、大学病院で毎日数多くのマンモグラフィや超音波、MRIの画像診断をしてきました。加えてマンモグラフィガイド下の生検や、乳がん検診の読影および結果説明も行っていました。スタンフォード大学に研究留学後、そのままカリフォルニアに住んでおり、去年から乳がん啓発のセミナーも行っています。

 そんなバックグラウンドを持つ私は、「ブレ恋!」を観て、いろいろな気持ちが錯綜し、涙がちょちょぎれました。

 また劇中、時に医師である自分が責められているような気がして心苦しくなり、医師の無力感すら感じました。

 

 

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標準治療を選ばないのはコミュニケーション不足から?

 

 いろいろ書きたいことはありますが、まずは劇タイトルにも組み込まれている標準治療について。

 

 私は日本にいる頃、大学病院で毎週「cancer board」と呼ばれる、カンファレンスの担当をしていました。そこで、乳腺外科医、放射線科診断医(私)、放射線治療医、看護師が一同に集い、珍しい症例や難しい症例についてディスカッションしていました。

 毎週のカンファで私の印象に残っているのは、標準治療を選ばなかったせいで悪化し、大学病院に戻ってくる人が後を絶たない、ということでした。粒子線を当てまくり、胸に穴のあいた状態でくる人もいました。

 なので、小娘の私はいつも思っていました。

 

なぜ標準治療を選ばないのだろう?

 

 標準治療が、みんなの努力の結晶からなる、一番エビデンスレベルが高いベストな治療ということを知らないのだろうか?

 標準治療という名前がよくないのだろうか?

 「標準」という言葉の響きで、何かもっといい治療法、特別な治療法があるのではないか?という幻想すら抱かせるではないか?

 今の標準治療は【大事な胸を切る手術】【ネガティブなイメージの抗がん剤】がメインとなります。すぐには受け入れがたく、「もっといいは方法ないの?」と思われるかもしれません。

 一番エビデンスのある、治療効果が高い方法で治療したい医師と、それをすぐには受け入れられない患者サイド。そしてなんのエビデンスもない、民間療法に走ったりします。

 医師側の伝える力が弱いのでしょうか?

 これに関しては、私の中で答えは出ていませんが、コミュニケーション不足が問題になるケースもあるのではないでしょうか?

 

 

今ある溝を埋めたい

 

 また、セカンドオピニオンについても思うところがあります。

 最初の医師との相性が悪かったり、治療法に納得がいかなかったりする場合、患者さんは他の医師の説明を聞きにセカンドオピニオンを訪れます。まさしく「ブレ恋」でも起こっていることです。

 私の勤めていた大学病院では、土曜日にセカンドオピニオン外来があり、よく他院からの画像の診断を依頼されました。基本的にガイドラインに準じて標準治療を行っている病院は、セカンドオピニオンに行っても治療法が大きく変わることはありません。全く違う治療法を提案してくる場合は、おかしいと考えた方がいいでしょう。しかし、たとえ治療法が変わらなくても、主治医との相性は大切にした方がいいです。乳がんの治療期間は長いですから。

 

 書きたいことは山ほどありますが、最後に一言。

 この舞台には、患者、患者コミュニティ、医師がメインで登場していますが、実際の医療現場はそうではありません。看護師さんや技師さんも多く関わり、乳がん診療は回っています。

 外来で、病棟で、医師と患者の溝を埋めるのに、看護師さんの力は必要不可欠です。お忙しいでしょうし、全ての場面ではりついている必要はありません。

 例えば、がん告知、治療方針決定の外来など、要所要所で患者さんの様子を観察していただき、医師-患者間のコミュニケーションが上手くいってないなと感じた時、さっとフォローに行ってくれると助かる命もあると考えます。

 看護師さんは医師のキャラクターもよくわかっていますし、医師と比べ圧倒的に、患者に寄り添う気持ちに長けていますから。

 

 ひとりでも多くの方に、この「ブレ恋!」を観てほしいと思います。いろんな立場から乳がん診療というものを見直し、少しでも今ある溝が埋まれば、と願っています。(了)

 

 

舞台オンライン配信はこちらから

ブレストウォーズ 恋する標準治療!

 ~女の胸はときめくためにある。

 

【あらすじ】

 48歳の誕生日に乳がんの告知を受けた佳菜。 主治医のドクター曽根山は冷たく、夫は病気を心配してくれず、凹む彼女を救ったのは乳がんの先輩患者たち、そして曽根山のライバル医師・波暮田でした。しかし、なぜだか佳菜は不器用な曽根山のもとへ戻りたくなってしまいます。病いに悩み、人として成長した佳菜が最後に選び抜いた治療方法とは? 運命のドクターは誰?

 

【配信期間】 12月22日 12:00PMまで。 
(ご購入期限は11月22日 12:00PMまでです。ご注意ください!)

チケット&視聴 カンフェティにて3,000円で発売中!

【脚本・演出】 鹽野佐和子(THE RABBITS’ BASE代表)

【医療監修 Dr.中山紗由香(昭和大学病院乳腺外科

本編  2時間14分

 

 

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◆  SATOKO FOX先生のセミナー◆  

Q&Aセッション:授乳期の乳がんについて考える」  

 

 助産師さん対象の乳がん講座です。

 多くの助産師さんから、「乳がんのことは気になっていたけど、学ぶ機会がなかった」「乳腺外科の医師と連携をとりたいけれど、どうやって連携すればよいかわからない」といった声を受けて、それらの点を掘り下げていきます。

 

【講座の内容】

 ・助産師さんのための乳房超音波入門  

 ・炎症性乳がんを知っていますか?  

 ・助産院から乳腺外科への連携の依頼  

 ・玉川病院の新しい取り組み  

 

【開催日時】

2021年11月20() 13:00~(日本時間)
            11月19日(金) 20:00〜(カリフォルニア時間) 

・お時間の合わない方は、後日動画視聴が可能です。  

・参加費:一般 3,500円(税込)  

・エントリーはこちらから

 https://www.moribetakashitraining.com/offers/Ah8Fcbwv

 

 

 

 

がん看護実践ガイド『女性性を支えるがん看護』 イメージ

がん看護実践ガイド『女性性を支えるがん看護』

がんやがん治療が女性のライフサイクルへ与える影響は大きい。乳がんや子宮がん、卵巣がんなどは、生殖年齢である若年女性が発症しやすい傾向もあり、治療後の生き方や家族観の変化も視野に入れた継続的なかかわりが求められる。がん患者女性に対し、医療従事者はどのような視点を持ち、どう支えていくとよいのだろうか。「女性性」に焦点を当て、がん患者と家族への支援を考える。

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