女性の選択を支え続けた30年間

女性の選択を支え続けた30年間

2020.8.11 update.

インタビュー・構成/河合 蘭 (出産ジャーナリスト)                          通訳・取材協力/林 伸彦 (NPO 法人親子の未来を支える会)

月刊誌「助産雑誌」8月号では,「胎児の病気が見つかった時 妊婦と家族のどんな選択も支える助産師に」をテーマに特集を組みました。そこに収載した,英国 ARC(Antenatal Results and Choices)の代表・ジェーン・フィッシャーさんのインタビュー記事のダイジェスト版をかんかん!でご紹介します。
ARC は,出生前診断を受け,妊娠継続をするかどうか悩む女性の相談を受けている慈善団体です。ARC の活動,スタッフの採用基準,相談内容,英国における出生前診断の受け止められ方など,興味深い内容となりました。

 

   英国では,超音波検査と血液検査の組み合わせによって,13,18,21,三つのトリソミーの可能性を調べるコンバインド・テストが 1980 年代から広く提供されており, 寄付金で運営されるARC(Antenatal Results and Choices:出生前診断前後の結果と選択)という慈善団体が女性たちの相談に乗っていることが知られている。  

   今回, 林伸彦さん(NPO 法人 親子の未来を支える会)のご協力を得て, web 会議ツール Zoom で英国・ロンドンと日本をつなぎ, ARC の代表であり,英国スクリーニング検 査 委 員 会 (The UK National Screening Committee:UK NSC)でFetal, Maternal and Child Health Groupの委員も務めるジェーン・フィッシャーさんにお話を伺った。

 

 

19年間ARCと共に

 

河合 ジェーンさんは 19 年間もの長きにわたりARC で相談役をされてきたそうですが,そのきっかけは何だったのでしょうか。ARC について,設立当時のことからお話を伺えますか。

ジェーン ARC の母体は,1988 年にできたSATFA (Support After Termination for Abnormality)という組織です。検査後に妊娠を中断した親と,現状に問題点を感じていた医師,助産師が作りました。当時は,英国に胎児スクリーニング検査が普及していった時代で,医師によってはその心理的な面を理解せず,「さて,次は元気な赤ちゃんを産みましょう」というような話をしていたのです。 1998年,ARCに名称を変えました。英国にも人工妊娠中絶を語りにくい風潮はあります。ですからARCはそんなに世間の注目を浴びるということもなく,細々と活動してきました。でもARCは,サポートを必要とする人はその存在に気が付き,利用することができるようになっています。

河合 ARC は民間の慈善団体ですが,国のサービスと強く結び付いていますね。

ジェーン 英国の医療政策は,常に患者の代弁者がいる場で物事を決めていきます。英国スクリーニング検査委員会という特別委員会があり,ここがスクリーニング検査についての勧告を出したり,検査プログラムを作ったりしますが,私もこの委員会の委員の一人です。政府は基本的にこの委員会の答申に従い,政府の方針に基づいて英国公衆衛生庁(Public Health England)とNHS がサービスを実施します。

河合 ARC は医療関係者との連携も大切にされているとお聞きしました。

ジェーン 医療関係者たちと相互に尊敬し合うことはとても大切で,私たちは「ARC はきちんとしたことをしている」と思ってもらえるための努力は惜しみません。ですから医療者向けにカウンセリングのトレーニングコースを開催していますし,学術会議に参加したり,一緒に調査を行ったりもします。

 

相談に乗る時に大切なこと

 

河合 女性たちは,どんな時に,どんな内容の相談を寄せてくるのですか。

ジェーン ARC に連絡をしてくる方は,ほとんどが既に検査を受けて結果を待っている方, もしくは診断確定後で,心理面でのサポートを 求めている方です。相談内容は本当に人それぞ れで,疑われている疾患の詳しい情報が欲しい 人もいますし,「多分,病気ではないですよね」というように,誰かに「大丈夫ですよ」と言っ てもらいたくて電話をしてくる人もいます。  相談される疾患はありとあらゆるものがありますが,多いのは 13,18,21 の三つのトリソミーです。恐らく,ダウン症候群が全体の約半数を占めていると思います。X 連鎖劣性遺伝病,心臓の奇形,二分脊椎も多いですし,最近は妊娠後期に脳の異常が見つかるケースが増えています。

 英国全土から相談を受けており,年間の問い合わせ件数は約 5000 件ですがそのうちメールでの問い合わせは 3500 件,電話が1500件です。この二つの手段がほとんどで,対面での相談は月に1件程度です。

河合 相談に乗る上で大切にしていることを教えてください。

ジェーン 非指示的で,個別なアドバイスをすることが,SATFA の時代から続く私たちのモットーです。私たちは,一人ずつ状況が違う女性たちに対して完璧な情報を示すことなんてできません。私たちはその選択を手伝う立場であり,それは,つまり非指示的で個別なアプローチをすることになります。私たちは,これを「女性と家族は自分たちの妊娠について,最も良い選択ができる人たちである」いう強い信念を持って実行しています。

 

スクリーニング検査の是非

 

河合 英国では遺伝カウンセラーはどんな役割を果たしていますか。

ジェーン 遺伝学に関わる高度な相談をしたい時は,遺伝カウンセラーに相談します。私たちは医学的な質問には答えません。その場合は,相談先を紹介します。家族歴のある方は,検査の前に遺伝学の専門家に会うといいですね。

河合 スクリーニング検査について,障害がある方たちの権利を擁護する立場から抗議が起きるようなことはありませんか。

ジェーン それは,時代によって変わってきました。約 30 年前にSATFA ができた時代は,中絶に対する偏見はありましたけれど,たぶん社会全体としては検査への理解や共感があったと思います。でも実は,当時より今の方が特にこの 5 年くらいは,ダウン症児の中絶に反対する人が増え,ARC の活動に対しても風当たりが強くなっています。

 以前からこうした議論があったのですが,10 年くらい前から障害者の権利擁護運動が活発になってきて,アンチ・チョイスつまりプロライフ(中絶反対の立場)の人たちが増えてきまし た。障害者を支援する法律の整備が進んできたということが,その背景にあります。

河合 そうなのですか。日本ではその順番が逆ですから驚きました。英国では,検査は女性が 知らされた上でチョイスをしているので,社会 の理解が得られているのだと想像していました。

ジェーン 検査を受けるかどうかを女性が自分でよく考えて選択する「アクティブ・チョイス」 (能動的な選択)は理想です。でも,英国でもそれができている女性は現実にはわずかですね。 今も 30 年前も,なんとなく安心しようと思って受けている人が多いんですね。

 

ARCのスタッフになるには

 

河合 ARC には,どのようなスタッフの方がいらっしゃるのか教えてください。

ジェーン コンサルタントはフルタイム 3 名, パート 4 名の計 7 名で有償スタッフです。パートタイム勤務の 1 名が胎児診断のクリニックに勤務していた医療職ですが,ほかは全員教育の分野や慈善団体で活動していた人で医療者ではありません。ほかに,週末の相談に対応するボランティアスタッフが 20 名います。コンサルタントは当事者ではない人を選ぶのですが……

 

 

この続きは、「助産雑誌」8月号本編に掲載されています。

 ぜひご覧ください。

 

 

●か わ い ら ん

1986年より出産,不妊治療,新生児医療を追い続けてきた出産専門のフリージャーナリスト。著書に『卵子老化の真実』(文春新書),『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版),ほか多数。『出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で,2016年科学ジャーナリスト賞を受賞。

河合蘭official Site  http://www.kawairan.com

 

「助産雑誌」8月号 発売中! イメージ

「助産雑誌」8月号 発売中!

特集 胎児の病気が見つかった時 妊婦と家族のどんな選択も支える助産師に

エコーも含む出生前検査や胎児診断が身近になった現在、おなかの赤ちゃんの病気−脊髄髄膜瘤、心臓病、ダウン症候群など−が分かることがあります。その場合、妊娠継続をするか、それとも産まない選択をするか、妊婦と家族は岐路に立たされます。
いずれを選択しても、また、生まれてから赤ちゃんの障害が分かっても、妊婦と家族が孤独にならないように支援される体制が望まれます。特集では、助産師をはじめとする医療者が、どのようにすると妊婦たちを支えられるのか、現在のサポート体制や意思決定の考え方などをご紹介し、臨床の助産師ができる、具体的な支援方法を考えていきたいと思います。

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