ポジティブな第一声を引き出す
看護におけるファッションの可能性を考える本連載、 今回からはより具体的なアイデアを紹介していきます
第2回のキーワードは、「『かわいいね』と言ってもらう」です。
病気や障がいは、周囲から「かわいそう」と思われがちです。
気遣いの言葉は悪いものではありませんが、あまりに気遣い過ぎると、
かえって患者さんに病気や障がいを意識させてしまうことがあります。
患者さんによっては、周囲に必要以上に気を遣われることやネガティブな印象を持たれることが嫌で、
病気のことを隠したり、人に会うことを控えたりする場合があります。
一方で、ちょっとの工夫で「かわいそう」よりも「かわいい」を上手に引き出している患者さんもいます。
「かわいいですね」「素敵ですね」というポジティブな言葉が第一声に出てくれば、 ハンディキャップだと思っていた部分も前向きに受けとめられそうです。
周囲からの前向きな言葉は、人に会うことをより楽しくしてくれるかもしれません。
では、どうすれば「かわいい」という言葉を引き出せるでしょうか。 ポジティブワードを引き出すだすコツは、「つつむ」と「そらす」。
具体例と一緒に紹介していきます。
ハンディキャップをかわいく「つつむ」
一つ目のコツは、「つつむ」。 ハンディキャップの部分を、包みこんで隠してあげる方法です。
大事なのは、ただ隠すだけではなく、お洒落に見えることです。
まわりから見たときに、隠すことが目的ではなく、 純粋にお洒落としてやっているという印象を与えることがポイントです。
例えば、腕吊りスカーフ。骨折した腕を白い三角巾ではなく、華やかな柄のスカーフで吊っている方に出会いました。
怪我をお洒落に包んでしまう作戦です。
服装のアクセントになって、純粋にお洒落。
この方にお会いしたとき、私も「骨折ですか、大変ですね」よりも先に、「スカーフ素敵ですね!お洒落ですね!」が口をついて出てきました。
白い三角巾は痛々しい印象ですが、それをスカーフに変えるだけで、むしろファッショナブルになるから不思議です。
私も腕を吊ることになったらスカーフを使おうと思っています。
また、服の柄や形のアクセントも「つつむ」に役立ちます。
「袖コンシャス」とも言われる、袖の形にアクセントのあるお洋服は、腕のお悩みをすっぽり包み込んでくれます。
私がお会いしたのは、腕のリンパ浮腫の患者さん。
「きれいな柄だとむくみもわからないでしょ」と仰る彼女のお気に入りのお洋服は、花柄のふんわり袖のブラウスとのことでした。
柄のおかげで腕のシルエットが目立たないし、華やかで周りの反応もいいのだとか。
隠したいから地味に徹するのではなく、あえて華やかな要素をプラスして味方につける前向きさが素敵でした。
袖コンシャスは視覚マジックで腕をカバーするのにもってこいです。
浮腫に限らず、「二の腕」を隠したい人にもきっと便利なアイテムではないでしょうか。皆の味方です。
また、ボトムも、柄ですっきり見えることもあります。
ポイントは、色数は控えめ&柄は大きめ。
浮腫やO脚で脚を隠したい方は、目立たないように無地のシンプルなボトムをはかれることもありますが、
柄物もうまく使えばシルエットのカバーに役立ちます。むしろカバー力は大きいはず。
ハンディキャップをお洒落に包みこんであげれば、自信もついてくるように思います。
かわいい方に注意を「そらす」
ハンディキャップの部分を派手にしなくてはならないわけでもありません。
地味におさえるのも良い手です有意義な方法です。
さらにおすすめしたいのは、そこに注意を「そらす」アイテムをプラスする方法です。
隠したい部分を地味にするだけでなく、見る人の注意が持っていかれるような目立つアイテムを他の部分につけてあげるのです。
例えば、大ぶりのアクセサリー。
かつてお会いした脚のリンパ浮腫の患者さんは、手作りの大ぶりのネックレスをいつもつけていました。
シンプルな服装にアクセサリーをつけてあげれば、見る人の視線はアクセサリーに向きます。
友達から「かわいいね!」と言われたらこっちのもの。「自分で作ったのよ」とお洒落の話に花咲きます。
「みんな浮腫なんて見てないわよ」とのこと。
さらに、アクセサリーの話で一盛り上がりした後は、浮腫の話をしたとしても暗い雰囲気にはならないようです。
帽子やターバン、イヤーアクセサリーなども、「そらす」のに役立つアイテムです。
顔周りが華やかになるし、周囲からの目線が高い位置に行くのでスタイル良く見えます。
他にも、私が感銘を受けたのが、デコ車いす。
車いすにお気に入りのデコレーションを施すという工夫です。
車椅子移動は大変そう、辛いだろうな、といったネガティブな考えをよりも先に、「かわいい」というポジティブな感想を見る人に抱かせます。
印象的だったのは、ミニ扇風機付きの車椅子。
思わず「かわいい!」と声を掛けてしまいました。車椅子を自分好みにアレンジするという前向きさにも感動しました。
自分でも「かわいい」と思える車いすは、お出かけも楽しくしてくれるのではないでしょうか。
自分をどう見せたいか、相手にどう見られたいか、というのはお洒落のポイントだと思います。
見せたくない部分から見せたい部分へ周りの視線を誘導することは、誰にとっても役立つコツではないでしょうか。
病院でも「かわいい」と言われてほしい
お洒落アイテムを褒められる場所は病院にもあります。
病院で靴下を褒められて嬉しかった、という方がいらっしゃいました。
整形外科に通っており、診察のために脚を見せたところ、履いていた靴下が素敵だと看護師に褒められたそうです。
その反応が嬉しかったので、いろいろな靴下を買って病院に履いていくようになさっているとのことでした。
私自身、アパレルメーカーに勤務しているので店頭に立つこともあるのですが、
年配のお客様に「出かけるところといっても病院しかないしねえ。病院にこんなお洒落なお洋服着ていけないわ」と言われることが時々あります。
購入を断る口実かもしれませんが(笑)、そういう感情を少なからず抱かれていることは、もったいなくも感じます。
診察の邪魔にならなければお洒落をしてもいいと思いますし、通院も大切な社会生活の一部なので、
人に会う機会として、楽しんだり自信を持てたりする機会であってほしいと考えています。
医療者の皆さんも、患者さんのお洒落な工夫に気づいたら、ぜひポジティブな反応を返してほしいです。
ファッションを活用して素敵に見せる工夫をすることで、周りの人からポジティブな言葉を引き出し、
自分の気持ちをより前向きにし、前向きになった気持ちでまたお洒落をするという、プラスの連鎖が起こせると思います。
また、相手の第一声に「かわいい」というポジティブな言葉が出てくれば、ハンディキャップそのものもポジティブにとらえられ、
「実はね…」とかえって病気や障がいのことも話しやすくなるかもしれません。お洒落を通して、自分も他人も余計に気を遣わずに済むなら、素敵なことですよね。
患者さんにポジティブな言葉がたくさん届くよう、サポートしていただけると嬉しいです。
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