第1回 パターン・ランゲージって何だ?(2回連載)

第1回 パターン・ランゲージって何だ?(2回連載)

2017.1.30 update.

写真と文|神保康子(じんぼ・やすこ)=ライター

広告代理店勤務ののち、フリーランスで文章と写真をなりわいに。
その後、2010年 国際医療福祉大学大学院 医療福祉ジャーナリズム分野修士課程を修了。
2011年から、新宿の「暮らしの保健室」のスタッフ。
複数のわらじを履きつつ、このごろは、医療と暮らしの間くらいの分野について主に取材・執筆しています。

 

◎心地よさには理由がある

 

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あなたには、心地いい街や、居心地のよい場所が、ありますか?

もしあるとしたら、その理由を言葉にしてみてください。

――街には緑があって、広場もある。ときどき動物に出会えたり、多店舗マーケットも、仕事のコミュニティもあったりする。家なら、厚い壁があって、温かい色があり、自分を語る小物がある……などでしょうか。

 

これら多くの人が心地よいと感じる要素を集めて分析し、平易な言葉で表すことにチャレンジした人がいました。都市計画家で建築家のクリストファー・アレグザンダーという人です。

 

1970年代にアレグザンダー氏と仲間たちは、心地よさの秘訣のようなものを、253個の短い言葉にしました。そこには、「緑」「広場」「小さな人だまり」「動物」といった、物的な構成要素から、「ライフサイクル」「親密度の変化」「会食」「腰をすえた仕事」など、一見すると街や建築の構成要素には見えないものまで含まれていて、まるで詩のようにも見えます。

これらを組み合わせて考えていくことによって生き生きとした都市や建物が生み出せる、とアレグザンダー氏は言います。彼は、この253の言葉群を「パターン・ランゲージ」★1と名付けました。

 

アレグザンダー氏のパターン・ランゲージは、人々が古くからなじんできた、街や建物の心地よさのポイントを言語化してあります。だから、それらを受け継いでいくのにうってつけです。

しかも平易な言葉なので、一般の人や初心者とも共有でき、多くの人が都市設計や建築デザインに参画しやすくなりました。日本でもいくつかの自治体で、まちづくりに取り入れられています。

 

 

◎言葉が思考の道筋をつくる

 

 

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パターン・ランゲージには、実はもう一つ着目すべき点があります。建築以外にも、人間がかかわるさまざまな分野に応用できることです。

“暗黙的な実践知”が言語化されたパターン・ランゲージは、共通言語として、組織やプロジェクトなどがよりよく変化するための一つの「道具」のようにして使える、ということですね。

 

最初は、ソフトウエア開発の分野に応用されました。そして徐々にその分野は広がっていきます。言われたとおりに辿っていけば何かが完成したり、問題が解決できたりするような「マニュアル」ではなくて、「思考の道筋」のような使われ方、といっていいでしょう。

 

ここ10年ほど、日本においてパターン・ランゲージの他分野への応用を牽引し、発展させてきたのが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の井庭崇さんです。彼の研究室「井庭研」では、組織やプロジェクトなど、多くの分野にパターン・ランゲージを応用していきました。

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井庭崇さん(慶応義塾大学総合政策学部准教授)

 

で、結局、パターン・ランゲージとはいったい何なのでしょう? 井庭さんのホームページには次のように書かれています。

パターン・ランゲージは、「どのような状況で、どのような問題が生じ、それを解決するにはどうすればよいか」という〈状況〉〈問題〉〈解決〉をセットにして記述する知識記述・共有の方法です。

 

要するに、問題発見から問題解決の一連のプロセスが、「セット」としてコンパクトにまとまっている、ということですね。

といっても分かりにくいでしょうから、具体的に見ていきましょう。

 

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井庭研が富士通研究所の岡田誠さんたちと一緒につくった、認知症当事者と周りの人のためのパターン・ランゲージ『旅のことば――認知症とともによりよく生きるためのヒント』という本があります。

この本は、「2015年度グッドデザイン賞」と、「オレンジアクト認知症フレンドリーアワード2015 大賞」を受賞しています。

 

このサイトに、その一部が抜粋されているので、№9の「なじみの居場所」というパターンを見てみると……。

 

旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒントweb site

 

大きく書かれた「なじみの居場所」の下にある「家族も知っている外出先をつくる」は、言ってみればサブタイトルですね。

可愛らしいイラストの下に「外に出るよりも家にいることが多くなりました」と記されています。これが〈状況〉です。

 

そこでどんな〈問題〉が起こるかが記されているのが ▼そのとき の欄です。

「認知症だからといって、ずっと家のなかにいると気が滅入ってしまいます……」と書かれていますね。

 

次の ▼そこで には〈解決〉策が記されています。

「自分ひとりで行けて、家族も知っている行きつけの場所をつくります……」。ここが、このパターンについての説明になっています。「その場にいる店員さんや常連さんたちに、ひとこと挨拶をしておくと早くなじむことができるでしょう」と、ちょっとしたアドバイスも付いています。

最後、その結果どうなるかが ▼そうすると 欄に記されています。

 

 

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駆け足の説明でしたが、だいたいこんな構造のようです。

なかなか面白そうですが、これ、実際にはどうやってつくっているんでしょう。一人の頭の中でうんうん唸ってつくっている……という感じではなさそうです。

というわけで、慶応SFCの井庭研に出掛けてきました。そこではなんと、いま話題の「オープンダイアローグ」のパターン・ランゲージをつくっていたのです。次回、くわしくレポートしますのでお楽しみに!(第2回を更新しました!)

 

 

★1 アレグザンダー氏の著書名などは「パタン・ランゲージ」と訳されていますが(たとえば『パタン・ランゲージ――環境設計の手引』鹿島出版会)、ここでは「パターン・ランゲージ」に統一しました。

(神保康子「暗黙知を言語化する――「パターン・ランゲージ」の挑戦」第1回了)

第2回はこちら⇒

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