【第9週の1】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

【第9週の1】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

2014.7.29 update.

 

文:吉田育美
日本赤十字看護大学を卒業後、都内の総合病院に病棟看護師として4年勤務(うち3年は精神科)、都内の精神科病院の急性期病棟に2年勤務した後、日本赤十字看護大学精神保健看護学領域の助手として3年勤務する。

それから日本赤十字看護大学大学院に進学し、修士論文は精神科病院の慢性期男女混合病棟でのフィールドワークを通して、長期入院をする患者との茶話会グループの実践をまとめた。そこで出会った患者たちの中には、ひとりで暮らすのはさみしいから病院にいる方がよいと話す方も少なくなかった。そのため、‘地域で暮らすこと’に興味をもった。

 

 

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【第9週の1】
日本の精神科病院の患者さんたちは、白癬、疥癬、巻爪、爪の変形、踵のひび割れ、肥厚……と足にトラブルを抱えていることが多いと思います。
ロベレート(Rovereto)に来て私は、当事者の方たちの足がとても綺麗なことに気づきました。こちらは、シャワーのみでバスタブにつかる文化はありません。にもかかわらず、綺麗なのはなぜだろうかと、私はずっと疑問でした。

 

先日、ある女性の方が「comunità【コムニタ】」のリビングにやってきて、カバンから白衣を取り出し、手袋をして、のう盆やヤスリ、角質を除去する機械を広げました。
当事者の方は、リビングのソファに座って女性に無言で足を差し出しました。
すると、女性はエステティシャンのようにクリームを足に塗りたくり、爪切りを始めました。数日前から数人の当事者の方が「爪が伸びちゃったの」と靴下を脱いでみせるので、私が切ろうか?と聞いたのですが、皆「やらなくていい」と言うので、一体何だろうと思っていました。どうやら彼女を待っていたようです。
彼女は「podologo【ポドローゴ】(女性はpodologa【ポドローガ】)」といって、「足の専門医」なのだそうです。

 

当事者の方はソファに座りながら、時に気持ち良さそうに、時に巻爪を切るのに「イー!」「ア!」と少々の痛みに耐えながら足のケアをしてもらっていました。
「podologa【ポドローガ】」のその女性は、2か月に1回往診に来て、当事者全員の足をケアするそうです。80代の当事者でも踵がツルツルで、私よりも綺麗なのではないか? と思うほどです。思わず、私も!と足を出したくなりました。

 

■■■「podologa【ポドローガ】」のケア
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今回は、「comunità【コムニタ】」や「centro【チェントロ】」を運営する協同組合の組織全体の紹介をしたいと思います。

 

協同組合とは、組合員間の互助企業です。イタリアの協同組合にはいくつかの種類がありますが、私が参加している協同組合は、社会的援助の必要な人たちへのサービスを行う組織です。
イタリアにはこうした協同組合がいくつもあり、地域ごとのニーズに基づいて、サービスが展開される仕組みになっており、公的福祉サービスを担う役割もあります。組合員は、労働者としての組合員、サービス利用組合員、ボランティア組合員という形で組織されています。

 

私が参加している協同組合は、ロベレート(Rovereto)の地域の他、いくつかの近隣の地域を担当しています。そして、「comunità【コムニタ】」や「centro【チェントロ】」も複数運営しています。
他にも、レジデンシャルセンターとして、80人ほどの居住施設もあります。こちらは移動や食事、排泄の介助が必要な方を対象としています。
身体機能や認知機能、知的障害、精神障害の重症度、それぞれの目的と能力によって利用する施設を分けています。
私がいつも通っている「comunità【コムニタ】」と「centro【チェントロ】」は、精神障害者を対象としており、組織全体からみると割と自立度の高い利用者が多いようです。

 

ハウスメイトのブラジルの女性は、私と同じようにボランティアとして施設に通っています。そちらは、“作業”を集中して行うということよりも、外出プログラムやリラックスを目的としたプログラムが多く、いつも専用車で湖や城に出かけていくのに彼女は付き添っています。また、前述したレジデンシャルセンターに、子馬や犬などとふれあうアニマルセラピー、ミュージックセラピー、アートセラピーなどをしに行くこともあると話していました。

 

そして、協同組合では色々な職種の方が働いています。前週少し紹介した精神科医も、「podologo【ポドローゴ】(足の専門医)」も、協同組合から委託されて当事者の方々を担当しているそうです。
もちろん専属の看護師もいますが、協同組合の組織全体で3名程で、主にコンサルタントとして、マネジメントのような仕事をしているようです。他にもソーシャルワーカー、心理療法士もいますが、私はまだ実際に働いているところにあったことはありません。
いつも私が“スタッフ”として報告している方たちは「educatore【エデュカトーレ】」という職種で、それについては次週また報告します。

 

協同組合には、ボランティア組合員がいるというのも特徴だと思います。
私やハウスメイトのように国際ボランティアを導入しているプロジェクトではなく、地域にいる市民の方たちによるボランティアです。組織には、こうした無償で働く市民たちを調整する専門のセクションもあり、学生や主婦、定年退職後の方、自分の仕事の傍らボランティアをする方など、現在200人以上の登録があるそうです。なかには、ボランティアとして専門にトレーニングを受け、1年間の限定でひと月500ユーロ(約7万円)をもらって働く有償ボランティアの方もいるそうです。

 

ボランティアの方がどのように活躍されているかですが、主に施設でのアクティビティを一緒にしたり、以前私が紹介した地域の劇場での演劇の企画や運営をするなど、協同組合のイベントをサポートしたりしています。日常的には移動の介助が必要な重症度の高い施設の方に配置されている傾向があるようで、私はまだ2人しかお会いしたことがありません。

 

ひとりの方は有償ボランティアの20代の学生の方で、「comunità【コムニタ】」にいる当事者がダンス教室に毎週通うのに付き添っています。また、イタリアに到着した当初、右も左のわからない私を施設に案内するという形で、何度か私も彼女にはお世話になりました。
もうひとりの方は、定年退職後の男性で、長年「centro【チェントロ】」でビーズ細工を指導してくれる方です。「今日は病院が混んでいて参ったよ。遅れちゃったよ」と言いながらやって来る彼を、当事者の方はうれしそうに迎え、「大変だったね」「どこか悪いの?」などと話しながら、細かい作業を教わっていました。

 

イタリアでは、学生の頃から何らかのボランティアをするのが当たり前のようです。元々、宗教的な慈善事業が盛んだったイタリア。なぜ市民の方はボランティアをするのか、こんなに浸透しているのはやはり宗教的なことなのかなどと、ボランティアセクションのスタッフに聞いてみました。
すると、「当たり前すぎてわからない」と首を傾げていました。

 

地域の人たちが協力して、地域に必要なサービスを行う――当たり前のことのようで、その当たり前が日本では難しいように思います。

 

障害者の地域のイベントに参加している10代の若いボランティアの子たちを見ていると、タバコを吸ったり、食べ物をむしゃむしゃと食べたりしながら受付をしていました。決して態度がよいとは言えませんでしたが、それでもボランティア活動に参加しているのが、おもしろいと思います。
若いうちから障害者の生活を知ることで、将来の組合員としての「comunità【コムニタ】」や「centro【チェントロ】」のスタッフを育むことになるのかもしれません。こちらでは、よく知られた職業なのだそうです。

 

日本では精神科病院の患者さんと一緒に外出をすると、悲しいことに、まだまだ地域の人が奇異な目で患者さんを見ていることがあります。でも、ロベレート(Rovereto)で、当事者の方と外出をすると、奇異な目を向けられるのは私の方です。確かに日本人はほとんど見かけないのですが、そんなに珍しいのだろうか……と考えてしまいます。
このことをハウスメイトに話すと、日本人は若く見えるため、子供が混じっていると思われたのではないかと笑われました。それとも、ここに日本人の障害者がいることが奇異なのでしょうか。

 

■■■協同組合が運営する、とある「centro【チェントロ】」のテラス
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