【第3週】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

【第3週】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

2014.6.10 update.

 

 

文:吉田育美
日本赤十字看護大学を卒業後、都内の総合病院に病棟看護師として4年勤務(うち3年は精神科)、都内の精神科病院の急性期病棟に2年勤務した後、日本赤十字看護大学精神保健看護学領域の助手として3年勤務する。

それから日本赤十字看護大学大学院に進学し、修士論文は精神科病院の慢性期男女混合病棟でのフィールドワークを通して、長期入院をする患者との茶話会グループの実践をまとめた。そこで出会った患者たちの中には、ひとりで暮らすのはさみしいから病院にいる方がよいと話す方も少なくなかった。そのため、‘地域で暮らすこと’に興味をもった。

 

 

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 今週のロベレート(Rovereto)は気温が上がり、日中は25℃を越える日もあって、いよいよ夏がきたという感じです。

 

そこかしこで街の人はジェラート(アイスクリーム)を食べています。そのため、ついつい私も買ってしまいます。最近は自分好みの美味しいジェラートを注文するために、イタリア語のフルーツの単語を必死に覚えているところです。

 

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コムニタでの暮らし
 

私の通っている「comunità【コムニタ】」と呼ばれるグループホームを紹介します。

 

ここは3つのユニットから成っており、私はその1つのユニットで過ごしています。前回写真で紹介した建物の中(写真)には、他の方の住居やオフィスもありますが、その一部に「comunità【コムニタ】」があるのです。

 

3つのユニットは各階に分かれており、1つのユニットには6人程度の精神障害者が暮らしています。その中には、車椅子や義足で生活している身体障害との複合障害の方もいます。

 

各ユニットにはそれぞれキッチンダイニング、リビング、トイレ・シャワー室、スタッフの部屋(夜勤用のベッド1台とデスクトップパソコンが設置されている)などが備えられていて、基本的にはユニット毎に独立した共同生活を送っています。

 

そして、私のいるユニットは、2人ずつの相部屋で、50~80代の男性2人、女性4人の方がいます。

 

彼らは朝9時から夕方5時頃まで、「centro【チェントロ】」と呼ばれるデイケアセンターのようなところに通っているので、日中の「comunità【コムニタ】」は誰もいません。私は午後から「centro【チェントロ】」へ行き、彼らが戻るのと一緒にバンに乗って、夕方「comunità【コムニタ】」へ行き、夕食を食べて宿舎に戻るという生活です。

 

 

「鍵」のこと

日本の精神科病棟と同じように、ここ「comunità【コムニタ】」でも色んなドアに「鍵」がかかっています。まず、建物の敷地に入る時のドアに施錠、ユニットに入る時のドアに施錠。ここまでは普通のアパート生活でも同じですが、ユニットに入る時の暗証番号式ドアの番号は、当事者の方は知りません。さらに、食材室やスタッフの部屋にも施錠がしてあります。

 

スタッフによると、当事者の方が勝手に盗っていってしまうことがあるからだと話していました。本当にそれが必要なのかは、今の私にはわかりませんが、初めてここに来た時に“日本の病棟を小さくした感じ”と少し思ったのには、この「鍵」の件があったからのように思います。

 

でも、たいていインターフォンを押すと当事者の方が対応し、名前を名乗ると解錠ボタンをすぐに押して開けて迎えてくれるので、お家に遊びに来たような感じもあります。

 

そして、彼女たちはひそかに暗証番号を知っているのではないかと私は感じています。なにしろ来たばかりの私がひそかに覚えてしまったのですから……。律儀に開けてもらうのを待つ当事者が可愛らしく思えます。

 

 

7人目の住人!?

部屋の内装の壁はオレンジ色と派手で、くつろぐスペースとしてのリビングには赤や緑のソファーがあって、そこに皆と座りながら私も一緒にTVやラジカセで音楽を聞き、おしゃべりをしたり、折り紙をしたりして過ごしています。

 

 

■■■「comunità【コムニタ】」のカラフルな部屋の中

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先週、あるスタッフに「自分の家に来たと思ってリラックスしてね」と言われました。当事者の方も「今日、夕食一緒に食べていけるよね?」と毎回聞いてくれます。そして、「夕食だよー」という声がかかると、皆と一緒に私も「はーい!」とダイニングに向かいます。向かうのが遅いと、何度も名前を呼ばれ「席はここだよ!」と誘導されています。

 

最近、おやつの時間に、彼女たちと同じように切り分けられたチェリータルト一片が私の分として用意されていたり、今まではスタッフ用のグラスだった私のコップが当事者用のプラスチックコップで用意されていたりする日もありました。私は、おやおや?と違和感を感じながら、それがおかしくてひとりでニヤニヤと笑ってしまうので、他の人からは空笑していると思われたかもしれません。

 

初めは、何もしていないのが申し訳ないと思い、皿洗いでも……と「手伝いますよ?」とスタッフの方に申し出ていたのですが、とんでもない! といったように毎回断られてしまいます。そのため、最近は本当に「お家」にいるような感覚で、まったりと過ごしながら7人目の住人のようになりつつあります。

 

イタリア語での会話はままならず、やきもきしたり、落ち込んだりすることは多々ありますが、「comunità【コムニタ】」は居心地のよい空間で、元々人見知りの性格の私がこんなに早くそう感じることができるのが、なんだかとても不思議です。

≪つづく≫

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