【第2週】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

【第2週】精神科ナースが単身海を渡った――イタリアの精神障害者施設滞在記

2014.6.06 update.

日本赤十字看護大学大学院の学生が、修士課程を修了後、単身、北イタリアのRoveretoにある精神障害者の協同組合が運営する施設に飛び込んで、生活を始めました。

3か月間の予定だそうですが、海外で、当事者たちと生活を共にする経験は貴重なもの。

いったいどんなふうに暮らしているの?……というわけで、彼女からのメールレポートを紹介させていただきます。

 

 

 

文:吉田育美
日本赤十字看護大学を卒業後、都内の総合病院に病棟看護師として4年勤務(うち3年は精神科)、都内の精神科病院の急性期病棟に2年勤務した後、日本赤十字看護大学精神保健看護学領域の助手として3年勤務する。

それから日本赤十字看護大学大学院に進学し、修士論文は精神科病院の慢性期男女混合病棟でのフィールドワークを通して、長期入院をする患者との茶話会グループの実践をまとめた。そこで出会った患者たちの中には、ひとりで暮らすのはさみしいから病院にいる方がよいと話す方も少なくなかった。そのため、‘地域で暮らすこと’に興味をもった。

 

 

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先日、居住先のアパートで、私が洗濯機とドライヤーを一緒に使ったばかりに電気がショートしてしまいました。

 

ハウスメイトのブラジルの女性とギニアの男性と一緒に暮らしているので、私が慌てて彼女たちにSOSのメールを送ると、仕事中にもかかわらず様子を見に来てくれました。でもすぐには復旧できず、丸一日ろうそくで過ごすことになってしまいました。

 

私はシャワーも浴びられないし、携帯電話も充電できない…と一大事でしたが、彼女たちは自分たちの国ではよくあることだよ、ちょっと電気を使っただけですぐショートしちゃうよなどと言い、なんのその。

 

夜になって、いくつものろうそくを灯すと、「誕生日みたいだねー」と言い、各国の言葉で誕生日の歌をうたって過ごしました。

 

責めもせず、明るくフォローしてくれた彼女たちに本当に感謝です。でも、私はイタリア語で「どうもありがとう」というくらいしか言えず、精一杯ノンバーバルな表現を手振り身振り使いながら「Grazie mille!!【グラッツェミッレ】」と伝えるしかありませんでした。非常にもどかしく情けない思いになりました。

 

魔法のアイテム 折り紙

 

「comunità【コムニタ】」と呼ばれるグループホームでは、現在50~80代の男性2人、女性4人の当事者が共同で暮らしており、1〜2人のスタッフが常時交代で駐在しています。

 

そこでは、折り紙がとても人気です。日本の精神科病院でも患者さんたちの興味を引くアイテムですが、イタリアでも折り紙はその威力を発揮しており、魔法のアイテムです。

 

日本から持参した折り紙で毎回、私は何度も鶴を折らされています。鶴を折ると、「Che bella!【ケベッラ】(すごい!なんて綺麗なの!)」と目を丸くして喜んでくれました。取り合うように、折り鶴をもらってくれるのです。私はもう何十羽折ったかわかりませんが、そんなに折り鶴を集めてどうするのだろうかと心配になるほどです。

 

ある女性当事者の方は、私が鶴を折り上げ、さて羽根を広げようかとするのと同時に、それを取り上げ、鑑賞する間もなく「Che bella! Che bella!…」と言い、部屋に運んでいってしまうということを幾度となく繰り返していました。

 

ふと、本当に喜んでいるのではなくて、私のために彼女たちは折り紙に付き合ってくれているのだろうかとも思えました。

 

鶴以外の折り紙作品も、たいてい彼女たちは喜んでくれるので、私は折り紙の本を見ながら色々なものを折っています。しかし、ここはイタリア、日本のようなお世辞や気遣いは薄いようです。気に入らない作品には、「うーん…ちょっとそれは…」と渋い顔をされ、片付けをする際には「これは捨てましょう」ときっぱりと言われ、ぐちゃりと握りつぶされてしまいました。

 

彼女たちにも折り紙に挑戦してもらいましたが、几帳面に角をそろえて折るという概念は日本独特のもののようです。豪快な折り方なのでサポートは必須ですが、出来上がるとひと際大きな声で「Che bella!!」と笑顔です。

 

これから、折り紙を介さないかかわりができるだろうかと思うと、期待と緊張の両方を感じています。

 

 

■■■「comunità【コムニタ】」がある建物と、当事者の方と作った折り紙の作品

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