かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.6.04 update.
民俗研究者、デイサービスすまいるほーむ管理者、社会福祉士、介護福祉士。
1970年生まれ。大阪大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。民俗学専攻。東北芸術工科大学芸術学部准教授を経て、2009年より静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護職員として従事し、2012年10月から。2003年刊行の『神、人を喰う――人身御供の民俗学』(新曜社)でサントリー学芸賞を受賞。2012年刊行の『驚きの介護民俗学』(医学書院)で各界からの絶賛を受ける。第20回旅の文化奨励賞受賞。
紀伊國屋書店新宿本店3階レジ前での「じんぶんや」……といったら本読みのツウの間で絶大な信頼を得ているフェア。
現在開かれている第89講の選者は、『驚きの介護民俗学』の著者、六車由実さんです。フェアタイトルは「介護民俗学のつくりかた」。
介護と民俗学をつなげて化学反応を起こした六車さん。その六車さんが選んだ30冊はこちら。
選ばれた30冊がどんなふうにお披露目されているのか心配になって(?)、六車さんは6月1日の土曜、多くのお客さんで賑わってる紀伊國屋さん新宿本店3階をそっと覗いてみました。
じゃーん!!
――おお、六車さんの後ろには顔写真付きパネルだ。ア〜ップ
どーん!!
――六車さん、せっかくですからご自身の本を持って記念撮影を。
――ありがとうございました。こうして本棚を眺めてみて、いかがですか?
六車 やっぱりうれしいですよね。自分で選んだ本をこんなふうに、しかもレジの前に置いてくれて。
それにしてもケアの本と民俗学の本、そしてその周辺のものが「混ざってる」って感じがいいですよね。
――この景色自体が珍しいですよね。なぜか『幻聴妄想かるた』もありますし(笑)
六車 あ、あれ好きなんです。ホームでもやりますし。
――ちょっと棚のアップも撮っておきましょう。
――この中おすすめ本の中でも六車さんの超おすすめ本ってどれですか?
六車 内澤旬子さんの『世界屠畜紀行』ですね。
そもそも私は生贄(いけにえ)の研究をしていたので(注:サントリー学芸賞を受賞した前著『神、人を喰う』は生贄の研究本です)、もともと動物を殺すというか、屠畜(とちく)に関心があって。
――はじめから屠畜に関心があったんですか?
六車 ええ、人は動物をどのように殺して食べてきたのか、ってことに。
――え? 生贄を研究する前から?
六車 あ、いえいえ、生贄の研究をやっててですよ!
――あ、安心しました。そういうのが好きな人かと……。
六車 ちょっとまずいじゃないですか、いくらなんでも(笑)
民俗学やってて、だんだん生贄に興味を持つようになって。生贄って人とか動物とかを祭りのなかでみんなで殺して神様に捧げるって儀式じゃないですか。
だからやっぱり実際に殺すところをちゃんと見ておかなくちゃいけないと思って、沖縄の屠畜場に見学させていただいたりしたこともありました。そのときにすでに『世界屠畜紀行』の元になった連載を読んでしたんですよ。
六車由実さんの『世界屠畜紀行』へのコメント(@じんぶんや) 私が内澤旬子という人に初めて出会った本。世界中をまわって屠畜という仕事とそこで働く人々を参与観察する内澤の軽快な文章と緻密なスケッチは、私の憧れだ。スケッチを堪能してほしいので、文庫本よりこちらがお勧め。 |
――どこに連載されていたんでしたっけ。
六車 『部落解放』ですね。
――それでこの本も解放出版社から出ているんですね。
六車 すごい連載だなあと思っていたんです。内容もさることながら、このスケッチ! これに憧れましたね。こんなに描けたらどんなにいいだろうって思いました。
――民俗学者として、ですか?
六車 そうそう。民俗学者でも絵を描ける人はいるんですが、寸法とか正確さにこだわって描くんですよね。だから内澤さんみたいに、ラフでいて緻密な絵はいいなあと思って。
このあと内澤さんにちょっとハマって、『おやじがき』を買ったんですよ。学生と一緒に回し読みして(笑)。内澤さん、大好きです。
――もう一冊挙げていただけますか?
六車 そうですね。『人生最後の食事』ですね。
ドイツのホスピスのシェフが、自分で末期がんの患者さんに思い出の味を聞いて、それを復元するっていう話なんですよ。一度じゃできないから何度も何度も話を聞いて再現して。聞き書きが、味という「形」になるのがすごいなあと前から思っていて。
自分でもそれに近いことができないかなと思って、今ちょうど私の勤めているデイサービスで、それぞれの利用者さんの思い出の味っていうのをみんなで再現しようと少しずつやり始めているんです。
――このシェフは聞き書きをして、なおかつ実際にも作っているんですね。
六車 そうそう。聞き書きっていうか、どんなものを食べたいですかって聞いているうちに、患者さんが人生について語ってくれたりね。そうすると、その食べたい物がその患者さんにとってどんなに大切な味かわかってくるじゃないですか。
――味という形で還元されるのはいいなぁ。これはいいアイディアですね
六車 ぜひ皆さんに読んで貰いたいです。
六車由実さんの『人生最後の食事』へコメント(@じんぶんや) ドイツ郊外のホスピスで、専属の一流シェフ・ループレヒトが、末期ガンの患者たちが語る思い出の味を再現し、一口でも食べてもらおうと格闘する、そのドキュメンタリー。ターミナルケアとしての聞き書きの一つの形。 |
(と盛り上がっているところへ、紀伊國屋書店さんのご担当、藤本浩介さんが登場)
――藤本さん、せっかくですから写真を〜
藤本 え、え、いや予想外の展開で……
ぱちり。
――今回のフェア、どんな特徴があるんでしょう?
藤本 「じんぶんや」は、普段の人文書のククリとはまた違う捉え方で選ばれた本のフェアなんですが、今回の第89講はこれまでの「じんぶんや」から見てもちょっと変わってます。
普段は、人文書売場にある哲学の本とか歴史の本とかをこの一角に持ってくるという形が多いんです。でも今回のは本当にジャンル横断的なフェアなんですね。こうなると私たちも面白いし、お客様も普段とは違う見方で見ることができるんじゃないでしょうか。新しいニーズを掘り起こすことができると思います。
――売れ行きはどうですか?
藤本 お陰様で反応がいいですね。ここに並べられた本は私どもの書店にはずっと置いてありますけれど、こうしてまとめて置いてあるのはこの期間中だけです。ぜひ開催中にこの棚をご覧いただければと思います。
――ほんとになんか不思議な棚ですよね。ウチの本はふだん医学書コーナーの奥の棚にささっているだけなので、普通の世界に初めて出てきたような感じがします。『弱いロボット』の「む〜」が、こんな晴れやかな所に出てきていいのかって感じもしますが(笑)
六車 「む~」大好き!
藤本 特に医学書院さんの「ケアをひらくシリーズ」はすごいポテンシャルを持った本だと思うんで、機会があることに前に出して行きたいと思っているんです。たぶんそう思っている書店員は多いと思うんですよ。
――ありがとうございます。
「かんかん!」読者のみなさまも、梅雨が開けないうちにぜひ紀伊國屋書店3階「じんぶんや」フェアへ!
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