かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.12.27 update.
米国Loma Linda大学大学院にて看護学修士号、日本赤十字看護大学大学院にて看護学博士号取得。現在、日本赤十字看護大学小児看護学領域准教授。
米国での小児看護臨床経験から、子どもの権利を尊重する医療環境に関心をもち、教育・研究に携わっている。子どもと家族に携わる医療者と共に、倫理葛藤を題材にした勉強会を定期的に開催。また、小児専門看護師を目指す修士修了生への支援活動も実施。
編)さて、江本リナ・川名るり先生が企画されましたDVD教材『臨床で役に立つ小児看護技術シリーズ 子どものフィジカルアセスメント』(全4巻)を拝見させていただきました。
子どもや家族に対して、声がけ、コミュニケーションをどのようにとるか、という部分が重視され、とても自然な看護師と子どものやり取りが収録されています。
映像を一旦とめて、重要なやり取りの部分をリプレイして詳しい解説を加えたり、発達・成長段階を意識しながらフィジカルアセスメントができるようなわかりやすい解説が加えられていて、印象に残りました。この教材をどのように使っていただきたいのかについてお伺いできますでしょうか。
●こころとからだの成長・発達を念頭においたアセスメントの重要性
江本)このDVDの企画意図ですが、アセスメント技術というものを考えたときに、からだのどの位置に聴診器をあてると正確かとか、どの部分に触れるとよいのか、などといった技術的な事柄ももちろん重要なのですが、それだけではなく、子どもが援助の対象であるという特質をふまえ、子どもに不快感を与えず、一緒にアセスメントを進めていくための雰囲気づくり、承諾、説明の仕方を強調したいと考え、その部分を工夫いたしました。
先ほど、おっしゃってくださったコミュニケーションのとり方についても、共同で企画した本学の川名先生と表現の仕方を練りに練って、強調したいと考えていたポイントですので、その点が伝わって嬉しいです。
フィジカルアセスメントというと、主にからだをどうアセスメントするかということに特化されてしまいがちなんですけれども、小児看護のなかで子どもをどうアセスメントするかというときに、常にこころとからだがどう関係し合いながら成長していっているのか、発達していっているのかということをつぶさに観察すること、それを常に念頭に置きながら子どもに接していくということが、重要であることを伝えたくて、その思いが詰まった教材に仕上がったと感じています。
編)そうなのですね。自然なやり取りのなかで情報を引き出していく方法、できるだけ子ども本人から情報を引き出すという視点も全体を通じて、大切にされているように感じました。なぜこどもから引き出すことが重要なのでしょうか。
●子どもの最善の利益を守る看護ケア
江本)年齢にもよりますが、基本的には子どもたちは、何を考えているか、何を感じているかを、十分にうまく伝えるすべをもちません。
そのようななかで、大人の目、大人の考えでみてしまうと、子どものとらえていること、考えていることがみえなくなったり、勝手に解釈したり、誤解してしまったりということが出てきてしまうのですね。
ですから、子どもの権利、最善の利益を守るという基本的な考え方のなかで、子ども自身が“いま感じていること”をできるだけ伝えられるような環境づくりや最大限の配慮を、私たちは常に心がけなければいけません。
無理に聞き出すのではなく、まずはどう子どもがどう感じているか、考えているかを理解するために、できるだけ仔細に観察すること、一緒にやり取りしているなかで表現をしてみたり、子どもがぽろっと口にした言葉を聞き逃さないなど、さまざまな情報から解釈していくというプロセスが必要になるのですね。
だからこそ台本のなかの台詞のようにつくりあげたやり取りではない、自然なやり取りが大事になるのかなと思っています。
編)そうした子どもとのコミュニケーションのとり方を、授業のなかで学生さんにどう伝えられていますか? 少子化社会において、きょうだいがいなかったりで、子どもとの距離の取り方にとまどう学生さんもいらっしゃると思うのですが。
江本)小児看護の教育すべてに通じると思いますが、「子どもだったらどう考えると思う? 子どもだったらどう感じると思う? 子どもだったらどう言うと思う? なんて表現するかなあ?」というようなことを常に学生に問いかけます。
また臨床の場で私たちが得た「子どもだったらこう語るんだよ」といった具体的な事柄をできるだけ伝えるようにしています。
たとえば、わたしの授業のなかでは、子どもへの声かけが大事だということは教科書などで学生も知っているのですが、実際に、どう表現すればよいのかを実演してもらいます。
たとえば絵本を渡して「この本を子どもに向けて読んでみて」と言います。多くの学生ははずかしいのか、教科書を読むように棒読みをするのですが、でも「じゃあ、子どもがあなたをみて目がキラキラするように読んでみて」というと抑揚をつけて読んでくれるようになるんです。それが、子どもとの対話というものなんだよ、と伝えています。
このような例もあります。学生に、相手に頭囲を計測する場面を人形を相手に説明して、というと「失礼します」「いまからはからせていただきます」とか大人に接するようにとても丁寧に言ったりする学生がいるのですね。
そのようなとき、「ちょっと待って。この子まだ1歳に満たないからそんな丁寧な敬語を使ってもわからないよね。じゃあ、どうする?」っていうと、「えー」っと考え込んでしまう学生が多いです。そのようなときには「独り言みたいな感じでもよいのよ。『いまからはかるね、やるからね、ちょっとつめたいよー』、とかいいながら、コミュニケーションをとって、距離を縮めていくことが重要なのよ」というと、そのあと学生たちは「じゃあ○○ちゃん、いまからはかるねー」と言いながらやっていたりしますね。
やはり生きた文脈のなかで教えるということが重要なのかなと思いますね。
●幅広い視野をもつことを重視した教材
編)DVDの第1巻では広い視野でみるということも強調されていました。大人のようにコミュニケーションが上手にとれない子どもへのアセスメントとは、身体診察、検索的なことばかりではなく、虐待の問題などもあると思いますので、皮膚など全体的にみながら、幅広くみることが重要であるということが伝わってきました。
江本)子どものアセスメントとは単にからだのフィジカルアセスメントをするだけではないということ、そして、子どもと家族を一緒にみていくということも、アセスメントに含まれていると考えています。
この子どもと親を一体にしてみていく、ということの重要性を伝えるために、そのあたりを意識した生の会話を入れながら、制作してみました。4巻すべてに親は出てきていないのですが、親に手助けをお願いする方法や、親に抱っこしてもらいながらアセスメントを行う場面も収めています。
子どもは親がいることで一番安心していられるのだから、離す必要はないし、親がいることで少しでもおとなしくしていられるのであれば、いてもらいましょう、とか。このように、親の役割、存在も大事にしながら、かかわってほしいということも強調しています。
編)このDVDは病棟でも外来でも活用できるのでしょうか。
江本)そうだと思います。収められている技術すべてが毎回必要になるというわけではありませんが、外来でも病棟でも、全身をみて、状態を把握しなければならないですし、訪問の小児在宅ケアの場合にも活用できるかと思います。
ただ、お子さんの病状によって、対応の仕方は変わってくると思います。今回は基本的に健康なお子さんに対しての発達段階に応じたアセスメントの方法を解説しています。
たとえば呼吸音の聴取では、何歳まではこうで、何歳以上はこうなる、といった発達を意識した解説を随所に交えています。
●アセスメント開始前の準備,コミュニケーションを丁寧に解説
編)第1巻では、アセスメントの準備、前段階においての子どもと親へのかかわりがかなりのボリュームで扱われています。2台のカメラを回しっぱなしで時間をかけて撮影したそうですが、自然な実際のコミュニケーションが再現されていました。
江本)アセスメントを手がける前の準備と子どもへの接し方については、これまで出ている教材では取り上げられてこなかったところかと思っています。そのあたりを丁寧に解説しました。子どもだからこそ、そうした視点が重要になるのですね。
第1巻の半分ぐらいがそこに費やされているのですよ。本来だったら、アセスメントのDVDですから、具体的な技術、子どもの身体はこうみていきます、ということからスタートしてもよかったのですが、そこをあえて、最初の巻のほとんどをそうした内容で構成しました。そこが従来のDVDにはなかったところですね。
取りっぱなしではなく編集はもちろんしているのですが、どのぐらいの時間をかけながら、子どもが慣れていくのか、緊張が少しずつほぐれていくのかとか、そうした部分を実際の時間の経過を映像で見てもらうことで伝えたかったのです。
いかに子どもをおびやかさないように行うか、子どもが「なぜこれをされているんだろう?」と不安なままにしないというような、子どもの権利をいかにまもるのかという姿勢が、小児看護における最重要のポイントなのですね。
DVDに出演してくださったのは小児専門のナースたちでした。どう接したらいいか、どうしたら子どもの気持ちを向けることができるのか、よく子どものことをわかっている方々でしたので、よりリアルな教材にしあがったと感じています。
●患者・家族をまるごとみる
編)昔の「看護婦」と言われていた時代は、教育が技術だけにとらわれていた気がするのですよね。いま、ようやく全体をみる視点が、臨床でも教育でも強調されてきて、どのように接していくか、気持ちを引き出すか、治療に結びつけるかということまで幅広く教えたり、あるいはその技術を行うことの根拠までを詳しく教えるような流れになってきていますよね。
まさしく看護教育の変革期なのでしょうね。そう考えると当然、教育時間は足りないですよね。
江本)日々、医療・看護が高度化するなかで、多少、臨床で技術を育成する必要性があることは否めないと思います。実習中に患者さんにさわれる機会も激減していると思いますし。
でもケアや技術の根拠を知識としてもっているナース、なぜそれをするのか、その理由を知っているナースを育成するのが、基礎教育の大きな役割かもしれませんね。
編)ありがとうございました。
【江本リナ先生の過去の執筆原稿】
*全文は弊社の電子ジャーナルサイトMedical Finderでご覧になれます。
看護研究44-2「Watsonによるヒューマン・ケアリング理論の発展と意義」
看護研究42-4「研究活動に不可欠となる基盤─『看護における理論構築の方法』『フォーセット看護理論の分析と評価』の活用」