第10回 発達障害者同士だと、みんな見てる方向が似てるところが、心地いいですね【おかみさん】

第10回 発達障害者同士だと、みんな見てる方向が似てるところが、心地いいですね【おかみさん】

2021.5.02 update.

横道誠(よこみち・まこと) イメージ

横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
上梓したばかりの当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

おかみさんは20歳、大阪在住。ADHD(注意欠如・多動症)を診断されている。

 

「むかしからマイワールドを持ってるって、言われつづけてきました」と語る。保育士と母親とが交わす連絡帳で、「きょうも自分の世界で楽しそうにしていました」とコメントされた。

 

会話や作業からすぐに脱線する癖があった。気づいたらまったく別のことをやっている。母親は料理中、おかみさんが静かにしているのが気になり、イヤな予感がして、様子を見にきた。おかみさんは、パジャマのボタンを外しては付け、付けては外していた。何かに没頭してばかりの日々。『天才てれびくん』の子役の真似をして遊んだ。

 

授業中によく寝ていた。通知表では、提出物に関して注意を受けた。小学2年生のときから、夏休みの宿題をちゃんと出さなくなった。しかし成績が良くて、「小さいころは神童でした」と言う。体育以外は、どの教科もよくできた。

 

おかみさんにできないことや、おかみさんの独特な考え方を、母親はよく受けとめてくれた。対照的に、父親は規格外の言動に眼を光らせていて、しょっちゅう怒鳴っていた。おかみさんは、自分でも自分を不思議に感じながら黙りこむのだった。

 

恐れ知らずな面もある。「一歩まちがえたらいじめられていたかも」というような言動を、交流を広げる手段にした。図書室も愛していた。愛読書は、はやみねかおるの『都会のトム&ソーヤ』シリーズ。ほかには、歌うことと絵を描くことが好きだった。しかし運動はできないから、マラソンがトラウマになった。

 

中学1年生のとき、小学生の弟と、東京に出張していた父のもとへ遊びに出かけた。目当てはディズニーランドとディズニーシー。宿泊の用意を揃え、なくしてはいけないということで、100円で買った小さい鎖で腰と財布を繋いだ。姉弟ふたりで初めて新幹線に乗ろうとして、ディズニーランドとディズニーシーのチケットを家に忘れたことに気づいた。

 

パニックになったおかみさんは、親に電話で相談したが、新幹線の時間を変更できると説明されても、理解できなかった。あわてて新幹線に乗りこみ、弟とふたりで泣きじゃくった。車掌さんが慰めてくれた。そして、おかみさんは気がついたのだ。自分のリュックサックを、駅のホームに置きわすれたということに。財布以外の貴重品は、すべてそこに入っていた。

 

リュックサックは、後日母親が回収してくれた。東京についたおかみさんは、父親に事情を話して、ディズニーランドとディズニーシーのチケットを買いなおしてもらった。気を取りなおして、大いに遊んだおかみさん。遊んでいる最中に3回も財布をなくして、3回とも落とし物として戻ってきた。「ディズニーと日本の治安はすごいと感じました」。

 

小学生のときは喋りすぎの「変な子」と見なされていたのだが、中学校では「なんだこいつ、おもしろいやつだな」と評価され、話題の中心になることが増えた。途中までは授業中に寝ていても勉強に付いていけた。2年生のときから、授業内容が分からなくなった。

 

絵を描くことは好きなままだったから、美術部に入部した。ニコニコ動画発のメディアミックス「カゲロウプロジェクト」に夢中になった。「中二病でした」と語る。中学時代は「すごく楽しかったなという思いと、逆にすごく暗かったなという記憶が同時に存在します」。3年生のときからリストカットを始め、たくさんの血を流した。

 

もともと優秀だったおかみさんは、努力することが苦手だった。受験勉強は全面的に放棄。同じ志望校を受ける生徒が集まって、一緒に出願しにいくことになった。当日、別居していた父からの電話で、おかみさんの眼が覚めた。時計を見ると、待ち合わせの時間がすぎている。学校から父親に連絡が入っていた。

 

進んだ高校は「可もなく不可もなく」のレベルだったけれど、「特進コース」。入学式のあと、クラスの最初の集まりで先生が言った。「みんな、いまホッとしてると思うけど、きょうからが大学受験だから」。おかみさんには、他人事と感じられた。

 

朝は起きられず、起きたら昼。授業中は寝てばかり。試験前に、友だちは社交辞令で「私勉強してない、やばいよ」と言いあっていた。おかみさんも「していない」と言った。おかみさんの場合は真実。友だちも理解するようになり、「おかみの言葉だけは信じられる」と言われた。

 

部活は演劇部に入った。「すっごく楽しかったです。没頭できる。自分の世界に入ることは得意だったんですよね。基本、人間って一つの人生しか体験できないじゃないですか。でも演劇をやると、少しでも別の人生を歩める。それが楽しくて」。私が「『ガラスの仮面』のヒロインみたいですね、彼女もADHDの特性がバリバリです」と言うと、「ほんとそうですよね。大納得。私も抜けたところがあって、いつも波乱万丈。主人公タイプかも」とのこと。

 

部活でも、作業を期限内に済ませられない。台本を書きなおす必要があったとき、友だちに「私はひとりではやらないから、電話を繋いだままでいて」と頼んだ。私が「ちゃんとコーピングがあったんですね」と指摘すると、「はい、ちょっとずつ得ていました」と返答する。

 

恋人との関係にのめり込んで、「ずっとべったりでしたね」。その結果、1、2年生のころの記憶が少ないと語る。「友だちもいて遊んでたんですけど、強烈な記憶が特に残ったのだと思います」。

 

恋愛と性的衝動に心と体が奪われた。性の世界にのめり込みすぎて、援助交際やデリバリーヘルスを始めたが、「すごく楽しんでました」と語る。「16歳で45歳の自称“調教師”と恋愛関係になりかけて、フランス製の媚薬を注射されて、その日6回ぶっ倒れました」。発達障害のある女性と性の問題は、発達界隈でいつも大きなテーマになっている。

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3年生のときも寝坊が多く、出席日数が足りるか怪しかった。交友関係はうまく行っていたし、成績も悪くなかった。それでも心は暗く、自傷行為はまだ続いていた。「みんな私と同じだと思ってたけど、そうではない?」と気がかりになった。

 

秋になり、自分は精神病ではないかと疑い、Twitterで発達障害の情報を得た。「こういうのがあるのか」。予約した病院は、たまたま発達障害の診療に長けていた。凸凹がはっきりした検査結果を受けとった。父親に報告するときには緊張した。「こんな私を、あんなに怒鳴りつけてきやがって」と思った。

 

保育園に通っていたころから、保育士になりたいと思いつづけてきた。大学での専攻の第1希望は保育、第2希望は心理学。しかし保育士になったとしても、自分にはマルチタスクがこなせない。雑務で行きづまるはず。心理学を専攻すれば、発達障害のことも学べると考えて、そちらを選んだ。

 

他大学の軽音インカレ・サークルに入って、ヴォーカルを担当するようになった。好きな曲は、harunoの「新昏睡」とポップしなないでの「魔法使いのマキちゃん」。 バックグラウンドに音の厚みがある曲、抽象的表現に富んだ曲が好みだという。しかし、ノンジャンルの嗜好で、あれこれ聴く。

 

コロナ禍では、オンライン授業が自分の発達特性に合っていないと感じる。特に課題の先延ばし癖に悩まされている。

 

「読者に伝えたいことは?」と尋ねると、語ってくれた。「発達障害って最初に知ったときはつらかった。でも、ちょっとずつ自分への理解を深めたことで楽になり、人柄も明るくなりました。心理学を勉強していると、連続的だった黒いモヤにいろんな名前が付いていきます。漠然とした大きな悩みが、細かく分割できるようになりました。発達特性と人格が別だということを認識できて、自分自身に向き合えるようになったんです。自分の悪い面ばかり気になっていたけど、自分の長所も特性のおかげでできていると感じます。たとえば衝動で飛びこんで、新しいものに出会えるというように。ダメなところも良いところも共存してる。そういうふうに、丸ごと受け入れられるようになりました」。

 

発達界隈についてどう思いますかと尋ねてみると、「自助会にも参加したことがあります。一般の人、定型発達の人と話していると、会話の方向性や目線を意識して重ねる必要があります。でも発達障害者同士だと、みんな見てる方向が似てるところが、心地いいですね」とおかみさん。「恋愛対象としてときめくのは定型発達の人ですけれどね」とも教えてくれた。

 

(横道誠「発達界隈通信!」第10回了)

 

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