第58回 平穏な最期のためのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)

第58回 平穏な最期のためのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)

2022.5.09 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|終末期医療の先にある備え―“人生会議”とは

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

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テーマ●平穏な最期のためのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)

 

第56回57回では、人生の終末期を過ごす場所として、医療機関、自宅、介護施設など、いくつかの選択肢があることを解説しました。そのような「場所」の問題だけではなく、自分が人生の最後を迎えるにあたって、どのような「治療」を受けたいのか、または受けたくないのかも、重要な選択肢となります。たとえば、食事が摂れなくなったときに胃ろうを造設するのか、呼吸ができなくなったときに人工呼吸器をつけるのか、心停止した時に心臓マッサージをするのか……といった問題です。

起こりうるこれらの事態について、あらかじめ自分の考えをまとめて、意思表示をしておくことが推奨されています。そうしておけば、もしものときに、自分が望まない医療を漫然と受けることを避けることができるからです。とはいえ、医療従事者でない人が、何の手がかりもなく、専門的な問題について1つひとつ回答していくことは難しいでしょう。そこで、家族やかかりつけ医などの医療従事者と、普段からそういった問題について話し合いの場をもっておくことが望ましいと考えられています。

この、「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のこと」1を、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と言います。

より親しみやすいように「人生会議」と呼ばれることもあります。

 

「それはそうなったときに判断すればいいよ」と思う人もいるかもしれません。しかし、脳卒中などで意識障害のある状況や高度な認知症などの場合、意思の疎通は困難になります。また、意識があったとしても、生命の危険が差し迫った状況で、冷静な話し合いができるとは限りません。

ほとんどの人は、自分の死について考えることに恐怖を感じるので、こういった問題をあらかじめ考えておくことをためらってしまいます。しかし、怖いからといって終末期への準備を怠っていると、いざというときに判断ができなかったり、不本意な状況に陥ったりすることになりかねません。

まだまだ時間的、精神的な余裕のある時期から、さまざまな問題についてあらかじめ考えておき、心の準備をしておくことが大切なのです。

 

考えておくべき項目には、以下のようなものがあります。

 

①終末期をどこで過ごしたいのか

②自分がうまく判断できなくなったときに、誰の意見(特定の家族や親しい友人など)を尊重してほしいのか

③回復が見込めないときに延命治療をするのか

 

すべて大切な項目ですが、思いのほか重要なのが②です。要は、自分にとってのキーパーソンを指定しておくということです。信頼できる家族や親しい友人に、日頃から自分の価値観や思いを伝えるようにしておきます。そうすれば、万が一自分の意思を伝えられないような事態に陥ったとしても、代弁してくれるキーパーソンがいることによって、医療者も最善の対応をしやすくなります。

 

については、前述したように、胃ろうや人工呼吸器、心臓マッサージなどが含まれます。しかし、いきなり「人工呼吸器はどうしますか?」と聞かれても、本人が戸惑ってしまうでしょうから、①②などの話をしながら、徐々に詳しい内容について話を進めていくのがよいでしょう。

そして、当然のことながら、すぐに決めなくてはいけないわけではないし、いったん決めた内容も、何度でも見直すことができます。折に触れて本人の意思を確認することが大切です。

 

ここで、陥りがちな落とし穴があります。

1つは、終末期の対応について主治医の意見を絶対視しすぎないということです。本人や家族の意思がおざなりになってしまい、主治医の意見の追認だけになってしまわないように注意しましょう。

もう1つは、逆に、本人にも主治医にも明確な意思表示がなく、いつまでたっても合意が形成されないことです。この2つを避けるためにも、家族や様々な医療・介護スタッフも参加しながら、本人にもっとも望ましい着地点を見出していくことが必要です。

 

 

ちなみに、ACPとリビング・ウィルはどう違うのでしょうか。

前者は医療従事者と一緒に作り上げることを想定しており、それがそのまま治療や介護の場面で適用可能です。一方後者は、葬儀や相続など、もう少し広い概念について含むこともあり、必ずしも医療従事者が関与せずに作成されることもあります。とはいえ現実にはオーバーラップする概念であり、峻別する必要はあまりないでしょう。

 

参考

1)厚生労働省: 「人生会議」してみませんか.

2)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.

3)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編.

4)公益財団法人 日本尊厳死協会 

5)特集:終末期患者の医療.日本医師会雑誌,148(1),2019.

 

(了・次回へ続く

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