第56回 がんの在宅医療と地域包括ケアシステム

第56回 がんの在宅医療と地域包括ケアシステム

2022.4.01 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|がんの治療をどこで受けるのがよいか

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

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テーマ●在宅医療という選択肢

 

本連載では、「外科療法」「薬物療法」「放射線療法」「免疫療法」「緩和ケア」と、様々ながんの治療方法について解説してきました。 病変と患者がどのような段階、状態にあるのかによって、取るべき選択肢が変わっていきます。

そしてあともう1点、がん治療において検討すべきなのは「治療をどこで受けるか」という問題です。

 

がんは、一昔前まで早期発見することが難しく、そのため完治しにくく、短期間で亡くなってしまうという重篤な病気でした。がんと診断されれば即入院し、徹底抗戦して、亡くなるまでずっと入院して過ごす、ということが当たり前でした。

しかし医療の進歩とともに、がんが完治する人や、完治しないまでもいったん退院して、自宅などで長期にわたって自分らしい生活を送る人が増えてきました。

また、「在宅医療」の整備が進んできたおかげで、がんの進行した終末期においても、必ずしも入院せずに、自宅で医療を受けるという選択肢が可能に広がってきました。地域のかかりつけ医や、在宅医療に特化した医療機関により、在宅で緩和ケアなどが行なわれ、お看取りまでできるようになったのです。

 

なぜここまで在宅医療の整備が進んできたのでしょうか。

その背景には日本が置かれている特殊な事情があります。

 

日本は諸外国に比べても速いスピードで高齢化が進んでおり、がんや認知症、寝たきりなど、要医療・要介護の人口が急増し続けています。従来の医療リソースだけでは、この事態に対応しきれない可能性が高い。そのため、国は「病院」から「地域のかかりつけ医や在宅医療機関」へと医療の拠点を移しつつ、訪問看護、訪問介護といった在宅系サービスを利用して、要医療・要介護の人たちを「地域で受け入れる」ということを推進しています。さらに、在宅系サービスの他、介護老人保健/福祉施設などの施設・居住系サービス、ボランティア、NPOなど地域のリソースを掘り起こし、「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるネットワーク」の構築を目指しています。

このネットワークのことを、『地域包括ケアシステム』といいます。

 

地域包括ケアシステムを構築することは、地域の医療・介護の市場を活性化させ、雇用の増加にも繋がる可能性があります。

「平成22年版厚生労働白書」によれば、社会保障の経済波及効果は公共事業よりも高いことが報告されています。

 

 

 

以上のように、在宅医療が進んできた理由の1つは、「従来の医療リソースだけでは超高齢社会に対応できないから」です。

もう1つの理由は、当然のことながら、「終末期においても自宅で自分らしく暮らしたい」と希望する患者がたくさんいるからです。厚生労働省の資料によれば、国民の60%以上が、終末期において自宅での療養を望んでいると報告されています1)

ただし、「病気の種類」や「自立の程度」「認知症の有無」などによって、「終末期を迎えたい場所」の割合は変動します。必要な医療レベルが高い場合は「医療機関」、認知症の程度が強い場合は「介護施設」を希望する人の割合が増えています2)

自宅での療養を希望していても、同居する家族に迷惑を掛けたくないという人も多くいます。また、家族のサポートがまったくない場合(独居など)には、いくら地域包括ケアシステムが整備されても、在宅で終末期を過ごすことは難しくなるでしょう。

 

在宅医療には特有の課題もあります。まず地域包括ケアシステムは医師、看護師、ヘルパーなど様々な職種のネットワークから成り立っているので、専門知識や、得られる患者の情報に差が出てしまい、目指すゴールの共有が難しくなることがあります。また、在宅で行なわれている医療、介護は可視化されにくいので、客観的な評価や、標準化が難しくなりがちです。

 

終末期をどこでどう過ごすか、選択肢が広がるのは喜ばしいことですが、在宅医療が成り立つためには、様々な要因がクリアされる必要があるのです。

 

参考

1) 厚生労働省:在宅医療・介護連携の推進について.

2) 厚生労働省:平成29年度 人生の最終段階における医療に関する 意識調査 結果(確定版).

3)厚生労働省:地域包括ケアシステム.

 

(了・次回へ続く

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