第54回 続・がんの緩和ケアにおける痛みとは

第54回 続・がんの緩和ケアにおける痛みとは

2022.3.01 update.

近藤慎太郎(こんどう しんたろう) イメージ

近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|緩和ケアにおける精神的苦痛

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

 *ガストロペディア【消化器に関わる医療関係者のために】でも公開情報共有中

 

テーマ●がん医療における精神的苦痛への対処

 

前回は緩和ケアにおける身体的苦痛(特に疼痛)への対処について解説しました。今回は、精神的苦痛への対処について解説します。

 

がんと診断されることは、ほとんどの人にとって、まさに青天の霹靂です。

いくらがん治療が進歩したとしても、まだまだがんは死因の1位であり続けています。そのため、「がんの告知」が、「死の宣告」のように感じてしまったとしても、無理もないことだと言えるでしょう。

がんを告知されると、たいていの人は不安や恐怖、怒り、孤独感など、様々な負の感情が出現します。

精神的にショックを受けること自体は、むしろ自然なことです。しかし、それが長期間続き、まったく改善しない場合には要注意です。がんの告知から、「うつ病」「適応障害」を発症してしまった可能性があるからです。

その場合、医療者や家族は、速やかに適切な対応を取る必要があります。もしそれができなければ、がんに対する治療がうまくいかなかったり、患者が自殺したりする危険性も出てきます。

 

警察庁のホームページには、自殺者数の統計が報告されています。

それによると、令和2(2020)年度の自殺者数の総数は21,081人でした。

自殺に追い込まれてしまった人の原因、背景には何があるでしょうか。

一般的には、「経済・生活問題」「勤務問題」「家庭問題」「学校問題」「健康問題」「男女問題」などが挙げられ、健康問題(48.4%)が1位となっています。疾患別の細かい内訳はわかりませんが、がんがこの中に占める割合は高いと推測されます。実際に、がんと診断されると自殺のリスクが23.9倍高くなることが報告されています1)

やはり、がん患者の精神状態には十分な配慮が必要なのです。

 

がんの「告知直後」はもちろんのことですが、それ以外にも特に注意が必要なタイミングがいくつかあります。治療の選択をするときや、通院治療を開始するときには心の負担が大きくなります。また、転移・再発が見つかったときも、当然強いショックを受けます。さらに、入院治療をして退院したときに、フッと心が弱くなってしまうこともあります。

 

 

ここで大切なことは、診断基準は1つの目安であり、絶対的なものではないということです。

白か黒かではないので、この診断基準を満たさなくても、典型的なうつ病とは少しタイプが違う「非定型うつ病」や、「うつ病の前段階」にある可能性も十分あります。

ですので、「診断基準に入らないからうつ病じゃない」ではなく、「うつ病の入り口かもしれない。気を付けよう」と考えることが大切なのです。

 

エリザベス・キューブラー・ロスはその著作『死ぬ瞬間』の中で、死を受け入れるプロセスとして、「否認」→「怒り」→「取り引き」→「抑うつ」→「受容」という5段階を経ていくことを示しました。これは1つのモデルを示しただけであって、段階の1部分がない場合もあるし、行きつ戻りつすることもあります。患者の示す感情はとても多様で落差があり、平時に比べて大きなギャップを感じるかもしれません。また、「否定」や「怒り」という感情は、病気を見つけた医療者に向けられることもあります。たとえ不条理な対応をされたとしても、それはプロセスとして本人にとっては避けがたいものなのかもしれません。

とはいえ、必ずしもすべてを許容する必要はありませんし、一人で抱え込むことも良くありません。チームとして対応に当たっていくよう心がけましょう。

 

参考

1) T Yamauchi, et al. Death by suicide and other externally caused injuries following a cancer diagnosis: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Psychooncology. 2014;23:1034-41. doi: 10.1002/pon.3529.

2)厚生労働省第4回がんとの共生のあり方に関する検討会:がん患者の自殺対策について(内藤庸介参考人提出資料),2020.

3)警察庁HP:自殺者数

 

(了・次回へ続く

(過去記事のアーカイブこちらから)

 *ガストロペディア【消化器に関わる医療関係者のために】でも公開情報共有中

 

[医学書院の《がん看護実践ガイドシリーズ]

   

がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド イメージ

がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド

ゲノム診療時代のパートナー。がん遺伝子パネル検査はこの本から始めよう。
がんゲノム医療を牽引してきたフロントランナーたちによる決定版。関連用語を網羅したキーワード集、がんゲノム医療の成り立ち、基本知識とその解説、「治験の探し方」「調査結果の読み方」「各種検査のスペック」「二次的所見とは?」などなど、はじめての医療者が必要とする情報を整理。がんゲノム医療に必要な実践知を余すところなく網羅!

詳細はこちら

サバイバーを支える 看護師が行うがんリハビリテーション イメージ

サバイバーを支える 看護師が行うがんリハビリテーション

がんサバイバーの自立を支えるために看護師が行うがんリハビリテーションを解説
がん、治療とともに日常生活を送るがんサバイバーが自立した生活を送るためのリハビリテーションが求められている。本書では、がんの治療期の患者に焦点をあて、がんリハビリテーションを実践するうえで基盤となる知識、技術について解説し、特に看護師が行う実践について取りあげている。看護師がベッドサイドなどで行うリハビリテーションや退院後の生活を想定したセルフケア指導について解説した1冊。

詳細はこちら

オンコロジックエマージェンシー 病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート イメージ

オンコロジックエマージェンシー 病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート

がん患者のエマージェンシーの早期発見と迅速な対応のために
がん患者のエマージェンシーには早期発見、迅速な対応が求められる。そのため、がんやがん治療について理解するとともに、エマージェンシーの徴候、見え方を知っておくことが重要である。本書では、症例を豊富に提示し、病棟・外来でエマージェンシーがどのように見えるのか、求められる対応、必要な知識を解説し、また外来化学療法を受ける患者の帰宅後のエマージェンシーへの対応(電話サポート)も取りあげている。

詳細はこちら

がん患者へのシームレスな療養支援 イメージ

がん患者へのシームレスな療養支援

超高齢社会に向けたこれからのがん看護に求められる知識と技術がここに
がん治療の進歩と罹患者の増加に伴い、がんとともに生きる患者が急速に増える一方、在院日数短縮化が進み、病院と在宅療養と介護サービスの適切な活用が必須となりつつある。がん患者の特性を踏まえた症状コントロールや心理的ケア、意思決定支援、限られた社会資源の調整といった「療養支援」を、治療の場と時期を問わず提供できることが病棟や外来の看護師に求められている。本書ではそれらの知識と技術を具体的に解説する。

詳細はこちら

このページのトップへ