第52回 がんの免疫療法のメカニズム

第52回 がんの免疫療法のメカニズム

2022.1.15 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|がん治療の4番目の柱 免疫療法

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

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テーマ●免疫療法のしくみ、考え方

がんの治療といえば、古典的には「外科療法」「薬物療法」「放射線療法」の3大療法が柱となってきました。そこに、近年4番目の柱として進歩してきたのが「免疫療法」です。

 

免疫は、自分の身体である「自己」と、病原体などの「非自己」を識別し、非自己を攻撃、排除する防御システムです。

がんは身体から発生したという意味では元々は「自己」であるものの、遺伝的変異の蓄積などによって異常たんぱく質(がん抗原)を発現しているため、免疫からは「非自己」として認識され、攻撃の対象となります。

この免疫の機能を利用してがんを治療するというのが免疫療法の考え方です。

 

免疫療法には、大きく分けて2つの方向性があります。

1つは免疫の機能を今より強化してがんを攻撃することです。

患者自身のT細胞(免疫を担う細胞の1つ)を体外に取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なたんぱく質を作り出すようにT細胞を遺伝子的に改変します。その後T細胞を体内へと戻すと、CARががん抗原をピンポイントで認識するので、T細胞のがんへの攻撃が活性化されるのです。特にCD19を認識するCAR-T療法では、難治性の急性リンパ性白血病に対して、70~97%もの寛解率が得られています1)。ただし固形がんの場合、CD19のような有益なターゲットが見つかっておらず、現在のところ有効性は確立されていません。


免疫を強化する治療方法としては、膀胱の上皮内がんに対するBCG膀胱内注入療法もあります。

BCG(Bacille Calmette-Guerin)は、皆さんが乳幼児期に接種した結核の予防ワクチンと同一のものです。BCGががんに取り込まれることによって、T細胞やNK細胞により攻撃が活性化されると推定されています。詳しい機序については解明されていない部分もあるのですが、臨床的な有効性は確立しています。


さて、免疫療法のもう1つの方向性は、がんによって弱まってしまっている免疫機能を元に戻す、ということです。

その代表的な薬剤が、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏が開発に関わった免疫チェックポイント阻害剤です。

免疫チェックポイント阻害剤は非常に画期的な薬で、使用することによって、従来の薬物療法では想定していなかった生存期間の延長が一部の患者に認められるようになってきました。たとえば進行性の肺がんであっても、免疫チェックポイント阻害剤での治療終了後に5年以上無再発生存しているケースや、悪性黒色腫で10年以上無再発生存しているケースなどが、少数例ながら存在するのです。

がんが免疫を弱めるシステムから順を追って解説します。

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 免疫チェックポイント阻害剤は非常に画期的な治療方法なのですが、やはり現実には理論どおりというわけにはなかなかいきません。マンガで解説したように特有の副作用がありえるのと、全員に同じような効果が出るわけではなく、効果がある人とない人が明確に分かれることも特徴の1つです。

また、臓器によっても、効果のある臓器とない臓器に分かれます。

悪性黒色腫、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、泌尿器系のがんには効果が認められる一方、たとえば大腸がん、膵がん、胆道系のがんには効果があまり見込めません。奏功率は、ホジキンリンパ腫のような特殊ながんを除けば10~40%といわれており2)、十分とは言えないのです。

 

近年の薬剤全般にいえることですが、本薬剤も非常に高価なので、治療効果の高い患者さんを選択し、適正に使用していくことが重要になってきます。そしてそのためには、効果予測因子として正確なバイオマーカーの開発が必須となりますが、現時点で多くのがん種に共通し、必要かつ十分なものはありません。その点も今後の重要な課題だと考えられています。

 

文献

alter AI et al. Chimeric antigen receptor-modified T cells: CD19 and the road beyond. Blood. 2018;131:2621-2629. doi: 10.1182/blood-2018-01-785840.

特集:がん免疫療法の最前線,日本医師会雑誌,147(11),2019.

がん情報サービス 

 

(了・次回へ続く

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