第46回 がんの薬物療法のメカニズム

第46回 がんの薬物療法のメカニズム

2021.8.01 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|がん治療で用いる薬剤の進化と現在

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

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テーマ●複雑化する薬物療法

 

薬物療法(化学療法)は、がんの遠隔臓器への転移などがあり、外科療法では根治が難しい場合などに選択される治療方法です。外科療法と同様に、今も昔も、がん治療の柱の1つとなっています。

また、外科療法か薬物療法かという二者択一ではなく、両者を併用する場合もあります。手術の前に、病変をできるだけ小さくしておくための「術前補助化学療法」や、手術の後に、視認できない小さながん病巣を叩いておくための「術後補助化学療法」があることは、第41回で解説した通りです。

 

さて、薬物療法には具体的にどんな種類があるでしょうか。

以下の4つに大きく分けられます。

 

①細胞障害性抗がん薬

②ホルモン療法薬(内分泌療法薬) 

③分子標的薬

④その他

 

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それぞれの薬物療法について少し詳しく解説します。

 

①細胞障害性抗がん薬

古くからある、狭義の抗がん剤です。この薬の歴史は、第2次世界大戦で使用されたナイトロジェンマスタードという毒ガス兵器の研究から始まりました。ナイトロジェンマスタードを誤って浴びた兵士が、白血球の著明な減少により死亡したことを受け、逆に白血球が増加する白血病の治療に応用されていったといわれています。

「細胞障害性」と呼ぶのは、細胞の増殖に必要となる、DNA合成や細胞分裂を阻止し、がん細胞の増殖を抑えるからです。

一般的にがん細胞は、正常細胞に比べて細胞分裂が活発であるため、抗がん剤が取り込まれやすく、効果が発揮されやすくなります。しかし当然のことながら、がん細胞ほどでなくても、正常細胞も細胞分裂はします。そのため、正常細胞にも抗がん剤が取り込まれ、人体にとって好ましくない副作用が生じるのです。特に、正常細胞の中でも細胞分裂の活発な細胞、つまり血液を造る骨髄細胞、毛髪の細胞、消化管の粘膜の細胞には副作用が出やすく、それぞれ血球減少、脱毛、消化管障害(嘔吐、下痢など)などをきたします。また、肝機能障害や腎機能障害もしばしば起こります。

 

②ホルモン療法薬(内分泌療法薬)

乳がんや前立腺がんでは、性ホルモンががんの増殖を促す場合があります。そのため、性ホルモンの分泌や働きを阻害することによって、がんを治療することができます。しかし性ホルモン阻害による副作用として、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、女性であれば月経異常、男性であれば勃起障害や女性化乳房などの症状が出ることがあります。

 

③分子標的薬

がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、がんに栄養を運ぶ血管などを標的とし、がんの増殖を阻止する治療薬です。正常細胞にはなるべく影響を与えず、がん細胞だけに特異的に作用することを目的としている点で、細胞障害性抗がん薬と区別されます。理論的には副作用が出にくいことが期待されましたが、分子標的薬に特有の重い副作用が出ることもあり、決して完璧な薬というわけではありません。

ちなみに、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏が関わっている免疫チェックポイント阻害薬は、免疫療法の一種ですが、分子標的薬(薬物療法)でもあります。

 

以上のように、薬物療法には様々なものがありますが、裏を返せば、現状で突出した効果をもっているものもありません。「これさえあれば大丈夫」という薬物療法はないのです。

今後も様々な薬物療法が登場し、そのつど、どれとどれを組み合わせるのがベストなのかを模索していく、ということになるでしょう。

 

そして、もう1つ重要な論点は、患者の遺伝子やたんぱく質を調べて、一人ひとりの体質にフォーカスし、そのタイプ別に薬を使い分けていくという、「プレシジョン・メディスン」が大事になっていくということです。

次回、詳しく解説します。

 

参考 国立がん研究センター がん情報サービス

 

(了・次回へ続く

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