第39回 日本一ザツな自助会を目指してるんです【池ちゃん】

第39回 日本一ザツな自助会を目指してるんです【池ちゃん】

2021.8.07 update.

横道誠(よこみち・まこと) イメージ

横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
今年5月に上梓した当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

池ちゃんは今年38歳になる。兵庫県川西市に在住。ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、双極性障害の診断を受けている。

 

身体的な成熟が遅く、小1の後半まで学校でおしっこを漏らしていた。宿題の先送り癖があり、夏休みが終わりかけるときに、慌ててやっていた。それでも勉強に関する困りごとはなかった。

 

小学生のときの思い出として、手塚治虫の『火の鳥 望郷編』を読んだことがある。「あれで性的嗜好が歪みかけましたね」と爆笑する。この作品では荒廃した惑星に移住した女性が、夫を亡くしたあと、冷凍睡眠によって若さを保ち、成長した息子と結ばれることで、子孫を保とうとする。しかし、近親相姦の結果として生まれてきたのは男の子ばかり。夫となった息子と死に別れた女性は、また冷凍睡眠をおこない、孫たちであり息子たちでもある少年たちがおとなになるのを待ち、ふたたび近親相姦をおこなう。とても手塚らしい作品だ。手塚作品では『ブッダ』もとてもおもしろかったと語る。私も『ブッダ』のおもしろさについては、太鼓判を押しておく。

 

中学生のころも優等生で通したが、大阪では誰もが知っているエリート公立高校に入ったあと、「勉強について行かれへんわ」と感じ、留年までしてしまった。ギターを好きになり、ガンズ・アンド・ローゼス、ニルヴァーナ、メタリカなどを弾いた。大学に入る気が起きず、専門学校で学んだが、1年ほどで中退し、働くようになった。

 

家電店でインターネットの配線を販売したのが3年間。職業訓練校に半年在籍し、携帯電話の販売代理店に7年勤務して、さまざまな部署を経験した。そのあいだに結婚したが、自分に友だちが少なかったため、花嫁と相談して、友だちは各自3人ずつくらいしか呼ばなかったという。表面的な付き合いは得意だったが空気を読めずに人を傷つけることが多かった。

 

弘兼憲史の『課長島耕作』が好きだという池ちゃん。「むしろ池ちゃんのお父さんくらいがぴったりの世代の作品ですよね」と問うと、主人公が「仕事にストイックになれるところに憧れますし、逆に女性関係のクズさが自分に通じて共感できます」とのこと。

 

働いているうちに、歯車は徐々に狂っていた。2010年代前半から「おとなの発達障害」が話題になりはじめた。思いあたるところがあり、妻に相談したが、「いまさら診断が出てどうするの」と言われた。なるほどそうか、と思っていたが、4歳前後だった息子が発達障害だと分かったときは衝撃を受けた。妻からそのように診断がおりたと聞いたときには、「そんなわけない!」と口走った。息子のことを天才と思って育てていた。仕事では鬱状態になっていた。診断を受けて、自分が発達障害だと知ったときには、息子がそうだと知ったときとは異なっていた。「ほっとしましたね。やっぱりそうなんかって」。

 

2018年春に診断を受け、1年くらいは寝たきりだった。だが、その多趣味っぷりが池ちゃんを支えてくれた。「ぼく、めちゃくちゃコーヒーが好きなんすよ」。安い豆を選び、焙煎機を使っておいしいコーヒーを楽しむ。ヴィンテージ・ジーンズの定番、リーバイス501を愛し、洗っているうちに色落ちが育つという侘び寂びの感覚を楽しむ。チャックの部分がボタンなのも魅力的だという。会社の友人から「一緒に楽しまへん?」と誘われてロードバイクに乗るようになった。聖地と呼ばれる場所をめぐり、琵琶湖一周、淡路島一周、瀬戸内しまなみ街道走破をおこなった。

 

現在の音楽的嗜好は、高校生のころよりずっと穏やかになっていて、エド・シーラン、ジョン・メイヤー、星野源など。好きなアニメは、自分も息子も楽しめる『鬼滅の刃』や『ドラゴンボール超』。ほかには『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。コンピューターゲームでは、「人狼ゲーム」シリーズや『龍が如く』を遊ぶ。

 

診断を受けたあと、地元の知り合いの店に行ったときに、発達界隈の仲間に出会って、この世界に引きいれられた。親子そろって発達障害の診断を受けたあとも、息子を天才と思って育てることにしたから、発達障害者の可能性に過度に期待してしまった。出会った発達障害者たちは、優秀で魅力的な人が多かった。

 

しかし学びの時がやってくる。2019年の夏、NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)のピアリーダー研修に参加。同年秋から、「さかいハッタツ友の会」に入り、仲間ふたりと「GAGAムーン」を主催。「おもしろいエピソードはあるんですけど、インタビューには載せられないですね」と笑いころげる池ちゃん。

 

発達仲間から大阪府茨木市にあった発達障害バー「ムゲーテ」で人を探しているという情報を得て、ボランティアとしてバーテンダーを1年少し経験する。「困ったことはありませんでしたね。楽しかったことばかり。でもマコトさんが当事者研究バーをしたときには、人が来すぎて大変でしたよ」と笑った。「ものすごい接客能力ですよね」と指摘すると、「自分が「濃い」人間とは思わないんですけど、営業力があるんでしょうね。見せ方がうまいんだと思います」との返答。

 

ムゲーテでバーテンダーをやるのと同じころから、ライブ配信・ラジオ配信用アプリ「ツイキャス」を積極的に利用しはじめた。話術のある池ちゃんは、人気者だ。躁のときには湧きあがる活動意欲を発散させるために、鬱のときには共感を集めて自分を癒すツールとして活用している。簡便な自助グループだ。

 

池ちゃんに「発達界隈から学んだことは?」と尋ねると、「おとなの発達障害者はみんな違って、みんなダメだってことですかね」と笑う。しかし自分のダメさを受容し、他人のダメさを許容することで、世界は開けると語る。「めっちゃダメやん、でもかわいいなと思うようにしてます」。

 

池ちゃんは発達障害の自助グループで他人から救われたと感じたことはないと語る。あくまで自分のためにやっている、しかし、そうすることでさまざまな気づきがあった、とのこと。まさしく「自助」グループ。

 

読者に語りたいことはありますか、と尋ねると、「ありません。まあ適当に行きましょ、ザツに、楽な生き方を模索していきましょうよ」との返答。「日本一ザツな自助会を目指してるんです」と語る池ちゃん。「自助会は簡単に始められますよ。時間と場所さえ押さえられれば始められる。場所はどこかの部屋とかでなくて、公園でもOK」。

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(横道誠「発達界隈通信!」第39回了)

 

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みんな水の中

脳の多様性とはこのことか!
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を診断された大学教員は、彼をとりまく世界の不思議を語りはじめた。何もかもがゆらめき、ぼんやりとした水の中で《地獄行きのタイムマシン》に乗せられる。その一方で「発達障害」の先人たちの研究を渉猟し、仲間と語り合い、翻訳に没頭する。「そこまで書かなくても」と心配になる赤裸々な告白と、ちょっと乗り切れないユーモアの日々を活写した、かつてない当事者研究。

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