第37回 どの人も、夢は絶対に捨てないで欲しい【あおとりさん】

第37回 どの人も、夢は絶対に捨てないで欲しい【あおとりさん】

2021.7.30 update.

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横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
今年5月に上梓した当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

あおとりさんは20代、関東在住。ADHD(注意欠如・多動症)を中心として、ASD(自閉スペクトラム症)とLD(学習障害)の要素が混じった発達障害の診断を受けている。

 

小学生のころから多動と衝動に悩み、算数ができなかった。簡単な課題もこなせず、九九は音楽でむりやり覚えたが意味は分からなかった。「周りの人々と自分は違うんじゃないのか」と困惑した。

 

中学校は公立で、1年生の冬から不登校。高校は通信制。教科ごとに習熟度別のクラスが設けられていたが、数学はいちばん下のクラスでも苦労した。遅刻、忘れ物が多かった。「本当に忘れられないエピソード」として教えてくれたのは、高校の3年間で、スマホを5回以上、財布を10回以上なくしたということ。

 

その後、専門学校でIT系の資格を取ったものの、人間関係に苦しんで中退。アルバイトを転々としたのち、A型作業所で仕分け作業やボールペン作成、神社のお守り作りなどの軽作業に従事した。それから障害者枠で雇用され、コールセンターの事務の代行処理、保険証の発行、契約書のスキャニングなどをおこなったが、意思疎通がうまく行かず退職。

 

そんなあおとりさんが発達障害の診断を受けたのは、20歳のとき。主治医から「努力不足でこうなったのではなく、生まれつきでそうなってる。よく頑張ったね」と言われたのが、忘れられない。思わず泣いてしまった。それまで、どうして自分にはできないのかと自分の努力不足を責めてばかりいた。

 

あおとりさんは、解離性障害の診断も受けている。幼いころから自身の内部に複数の人格を宿してきた。それらに切りかわっているときの記憶は欠落し、周りから指摘されてようやく自覚できる。あるいは記憶が飛んで、気づいたら別の場所にいるということが起こる。そこで、ああ、また人格がスイッチしたのか、と悟るのだ。

 

多いときには、自分を含めて5人の人格があった。現在は3人で、もうひとりの女性と、男性がいる。女性に関しては、「落ち着いているかたですね、私とは違っておとなの女性って感じです」、男性に関しては、「ずっと昔から、幼稚園の頃からいるかたで、気さくで真面目、芯が通ってるかただなって感じます」と語る。多重人格に関しては、生活のなかに溶けこんでいて「普通だと思っていました」。主治医に指摘されたときは「えっ、これみんなと違うの!?」と驚いた。

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あおとりさんと話していて、強烈に印象に残るのは、涼やかなアニメ声。高校では、声優になるための養成を受けていた。好きなアニメは、自分が生まれる前の、昭和末期から平成初期の作品。武内直子原作の『美少女戦士セーラームーン』、水木しげる原作の『ゲゲゲの鬼太郎』(第3期)や『悪魔くん』、手塚治虫原作の『三つ目がとおる』。魔法、怪異、伝奇の世界。

 

時代の流行にはあまり乗らなかったものの、同時代のアニメでは、高橋和希原作の『遊☆戯☆王』、横手美智子/花森ぴんく原作の『ぴちぴちピッチ』が好きだったという。音楽ユニット、Sound Horizonも好きで、最愛のアルバムは『Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜』。

 

趣味はアニメ系だけに特化しているわけではない。ポルノグラフィティ、シド、aiko、ゆず、きゃりーぱみゅぱみゅを好み、最近は山本彩の「サードマン」がお気に入り。カメラ撮影や旅行を好み、最近は読まなくなったが、一時期は「ハリー・ポッター」シリーズなどのファンタジー小説や、「シャーロック・ホームズ」ものに親しんだ。

 

あおとりさんは発達障害の診断を受けてから、「モノに支えられないと生きていくのが無理だ」と考えこんだ。一般的なライフハックも、発達障害者向けに特化された既存のライフハックも使い物にならなかった。だから、自分用の独自のライフハックの開発に専念した。綾屋紗月さんが主催する発達障害当事者研究会「おとえもじて」の情報を見つけ、参加し、「良い意味での衝撃を受けました」。当事者研究によって自己理解を深め、その自己理解を他者と繋がる基礎にできることを知った。

 

あおとりさんが、ライフハックの中心に置いているのはバレットジャーナル。アメリカの発達障害者、ライダー・キャロルが開発したスケジュール帳、アイデア帳、日記、ToDoリストなどを統合した、タスク管理開発システム。これと出会うことで、「脳内整理ができるようになった」、「やらなければいけないこと、やりたいことを視覚化できるようになりました」。特に魅力的に感じるのは、達成した課題にチェックの印を入れられること。発達障害者は報酬系が弱いため、自分にご褒美をあげることで自分をコントロールしやすくなると言われるが、まさにその回路を用意しているわけだ。

 

ちなみに、バレットジャーナルのスケジュール機能は使わない。別の、専用のスケジュール帳を併用する。「タスクとスケジュールを分けないと頭がパンクしそうになるんです」。そのスケジュール帳は、時間を縦に整理できる「バーチカルタイプ」だ。

 

いまは万年筆に夢中になっている。「安く買えるようになっています。1000円のものを買うんです」。インクの色調が美しく、書き味がなめらかなことに興奮を覚える。すでに20本以上も所有している。私が、「万年筆は苦手だった。インクを入れるときに、手が汚れるから」と口を挟むと、「汚れるのは仕方ない! ケアは大変だけど、それも可愛らしく思えるから」と答えてくれた。

 

文房具へのこだわりは、小さいころからあった。いまは「沼の底へ落ちました」と語る。特に好きな色は赤、緑、青だが、これは三色ポールペンの色に対応している。

 

あおとりさんに、「読者に特に伝えたいことはありますか」と尋ねると、「どの人も、夢は絶対に捨てないで欲しい」と言う。私は、それは人生を賭けて叶えるような大きな夢の話かと思ったのだが、そうではなくて、「どんな小さな夢でも持つこと」。

 

あおとりさんは、空を飛びたいという夢を持っていた。その夢は、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンで叶った。世界最長で世界最大高低差を謳っているコースター、「ザ・フライング・ダイナソー」に乗ったのだ。

 

私が、「その素敵な声を生かして何かができそうな気がします」と意見を言うと、「この声はツイキャスで身近な人との交流に使えているから充分」と答えてくれる。「バッグが欲しい」という夢を持ち、自分でそれを自分に買ってあげたり、恋人からプレゼントされたりする。ニンテンドー・スイッチが欲しいと願っていたら、なんとビックカメラの抽選で当たって、大興奮。

 

村上春樹の言う小確幸、つまり「小さいけれども確かな幸せ」。それをあおとりさんは、探求しているのだ。

 

(横道誠「発達界隈通信!」第37回了)

 

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みんな水の中

脳の多様性とはこのことか!
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を診断された大学教員は、彼をとりまく世界の不思議を語りはじめた。何もかもがゆらめき、ぼんやりとした水の中で《地獄行きのタイムマシン》に乗せられる。その一方で「発達障害」の先人たちの研究を渉猟し、仲間と語り合い、翻訳に没頭する。「そこまで書かなくても」と心配になる赤裸々な告白と、ちょっと乗り切れないユーモアの日々を活写した、かつてない当事者研究。

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