第42回 インフォームドコンセントのメカニズム

第42回 インフォームドコンセントのメカニズム

2021.6.01 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

|意外と難しいインフォームドコンセント

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

 *ガストロペディア【消化器に関わる医療関係者のために】でも公開情報共有中

 

テーマ●患者さんの「知る権利」のために

 

ここまで、主に「画像検査」「病理検査」によるがんの診断と病期診断、そしてキャンサーボードによる「治療方針」の決定までを解説しました。

この後から治療に入るのですが、最後に1つ大切なことが残っています。それが、「患者さんへの説明」です。

患者さんご本人に、

 

①今問題となっているのはどのような病気なのか

②治療としてどのような選択肢があるのか

 (治療をしないという選択肢もある)

③それぞれの治療法を選んだ結果、どのような合併症や

 副作用がありえるのか

④それぞれの選択肢を選んだ結果、どのような経過を

 たどると予想されているのか(完治するのかしないのか、

 しないとしたら予後はどれくらいを見込めるのか)

 

 以上を説明(inform)しなくてはいけません。

そしてその説明に十分納得、同意(consent)していただいたうえで、治療を開始します。

この一連の過程を、インフォームドコンセント(informed consent)の取得と呼びます。

 

今となってはもはや信じられないことですが、ひと昔前の日本では、「がんの告知は死の告知に等しく、精神的なストレスの大きさを考慮して、本人には真実を知らせず、家族のみに知らせる」ということがまかり通っていました。

おそらく、画像検査の能力が低かったことや、がん検診が広く普及していなかったことにより、がんを早期に見つけることが難しく、がんと診断されたときにはかなり進行しているというケースが多かったのでしょう。また、有効な治療法も少なく、できることが少なかったという事情もあるかもしれません。

しかし、だからと言って、本当は胃がんなのに、「胃潰瘍です。治るから心配ないですよ」と説明を受けたら、いったいどのような状況になるでしょうか?

退院できると言われているのにまったく退院できない。どうも家族の様子が不自然でおかしいし、体調は日に日に悪化していきます。食事はのどを通らず、体重は減り続け、体の痛みが抑えきれなくなります。「本当はがんなんじゃないか?」という疑心暗鬼に陥ってしまうでしょう。そしてもう最期の時になって初めてがんだったということが分かってしまったら……。「こんなことなら死ぬ前にやっておきたいことがあったのに!」と怒りと絶望の中で亡くなっていった方がたくさんいらしたのではないでしょうか。

 

がんの告知をしないことが社会的な通念だったのでしょうが、自分だったら人生の最期をそんな風に過ごしたくないと思う方も多いと思います。

 

しかし、そのような風潮もずいぶん変わりました。医療の進歩により、がんが必ずしも死に直結する病気ではなくなったことと、患者さんの「知る権利」が重視された結果、できる限り真実を伝えて治療を行っていくようになったのです。

 

インフォームドコンセントを理想的に実践するためにはいくつか注意点があります。

まずご本人の意向が大切です。

「病状を説明したいと思いますが、いいですか?」といったサラリとした調子で構いませんが、本人が説明を受けることを確認しましょう。

そして、家族にも説明していいかどうかを確認します。

いくら家族といってもあくまで他人です。全員の仲がよいとは限りませんし、資産など微妙な問題も絡むことがあるからです(もちろん医療者側はそんなことはおくびにも出さなくて結構ですが)。また、家族への説明についての同意が得られたら、できるだけ患者さんと近い立場(配偶者や子どもなど)で、ある程度冷静な判断ができる人(つまりキーパーソン)をみつけ、信頼関係を築きましょう。病状の説明は1回で済むものではなく、長期にわたって続くものです。医療者、患者本人、キーパーソンの全員で価値観を共有していくことが大切です。患者さんの状態が悪くなり、最期が近くなったときに、今までまったくお見舞いにも来ず、説明にも同席しなかった親族が突然やってきて、治療方針について反対する、ということが時々起こります。キーパーソンとなる人とは関係を密にし、親族の間でもコンセンサスを得ておくよう依頼しましょう。

たとえ患者さんが亡くなっても、家族は残ります。家族との関係を、決して軽視しないようにしてください。

 

また、時に難しいのが、本人が話をあまり詳しく聞きたくないというケースです。「先生にすべてお任せですから」「まな板の上のコイですから」という言葉は今でも時々耳にします。そういった人に詳しく説明しようとすると、立腹することさえありえます。もちろん、説明をせずに勝手に治療を進めることはできませんので、家族にも協力をあおぎながら、ポイントを押さえながら説明していきましょう。

 

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そして説明したことは医師、看護師ともにカルテに必ず記載します。カルテは公文書としての性格をもっています。あとから何か問題が生じたときに、カルテに書かれた内容が精査され、「事実として重視される」ということです(あとから虚偽の記載があると判明した場合は、文書偽造の罪に問われることがあります)。患者さんや家族がどう反応したか、方針に同意したかどうかなど、事実に基づいて、過不足なく記載しましょう。

また、患者側から「説明の内容を録音してもいいですか?」と聞かれる場合があります。もちろん、断る理由はないので快く同意しましょう。とはいえ、もし患者さんとのトラブルの最中での申し出であれば、自衛のためにも「ではこちらも録音させていただきますね」と録音を検討して→いいでしょう。

 

インフォームドコンセントは患者側の当然の権利である一方、義務であるとも言えるかもしれません。というのは、医療者側から見れば、インフォームドコンセントは医療訴訟対策として発展してきたという側面も否定できないからです。つまり、「私はきちんと説明して、あなたたちは同意したのだから、その限りにおいて、結果は受け入れてください」ということです。もちろん、その雰囲気があまりにも露骨に出てしまうと、患者側との信頼関係にひびが入ってしまいます。「将来的には大切な証拠になりうる」ということを頭の片隅にはとどめながら、建設的なムードを醸成するよう心がけましょう。

 

いずれにしても、インフォームドコンセントはよりよい治療を実践するためには必須のものなので、慎重に、そして適切に行っていきましょう。また、くれぐれも一人で抱え込むことなく、チームとしてしっかり行っていくという意識をもちましょう。

 

さて、しっかりとした説明をしたとしても、患者さんや家族が納得しない場合も十分ありえます。その時はどうすればいいでしょうか?

次回、解説します。

 

 

(了・次回へ続く

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