第17回 ぼくは、好きになった人に触る欲求を抑えられないんです【tbさん】

第17回 ぼくは、好きになった人に触る欲求を抑えられないんです【tbさん】

2021.5.28 update.

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横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
今年5月に上梓した当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

tbさんは29歳、愛知県在住。ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)傾向を診断されている。

 

幼いころから、男の子にも女の子にも分け隔てなく恋心を抱いていた。「好きになるとのめりこんで、半年ごとごとぐらいに相手が変わっていた気がします」。恋愛の「好き」と友情の「好き」の区別を付けるのが難しかった。保育園では好きになった子や保育士にベタベタ触っていた。「興味がどんどん移ってしまうのはADHDの、性的志向が両性に向いたのはASDの特性かもしれません」と自己分析する。

 

勉強が全然できなかった。注意散漫で、授業中はノートに落書きしていた。生き物が好きだった。父親がクワガタムシのマニア。tbさんも蝶や爬虫類に心をときめかせた。理科は、生物関係がテーマになったときだけ得意だった。

 

恋心が多い生活を送っていたが、小学3年生のときに、好きになった男児1人と女児2人が、続けて転居してしまった。ショックを受けたtbさんは、「恋愛不感症」に陥った。

 

中学生のころは、友だちと遊んでいても、交流の輪から外れて、外からグループを眺めている気分になった。「思春期だったからか、ASD特性なのかは分かりません」。

 

引きつづき、理科の生物が好きだったが、中学生のころのことは、あまり思いだせないと語る。「誰かを好きになっているときは日常が輝いていて、恋愛に関係ないことも、いろいろ覚えているのですが、好きな人がいないと、何も覚えていなくて」。大変な恋愛体質なのだ。

 

高校に進学。やはり生物以外の授業は興味がなかった。生物部に入り、動物を捕まえる際の緊迫感に心が昂った。生物室でカエルやヘビを飼育した。

 

このころはアニメをよく見た。『ひぐらしのなく頃に』のようなグロテスクなものと、『ひだまりスケッチ』や『ARIA』のような日常を丁寧に描写したものをともに好んだ。「落差の刺激を求めていたのかな」と振りかえる。

 

2年生のとき、「おとなしそうな、ぼくが好きなタイプの男の子」を好きになった。8年ぶりの恋心。しかし恋心を悟られて、3年生のときに距離を置かれて、疎遠になった。悲しみからか、そのあとは可愛がっていた弟に恋愛感情が向くようになり、苦悩した。

 

指定校推薦で大学に入学。自然環境保護について学んだ。生物多様性という概念を学んだが、環境を守るために一部の生物を特別に保護するという考え方に納得できないものを感じた。せっかく専門的に学ぶことになった生物学の分野だが、熱中できなかった。

 

大学2年生のときに、Twitterで3歳年上の関東に住んでいる男性と恋仲になった。遠距離恋愛だったが、2か月に1回ほどは行き来して恋心が燃えあがった。水族館に行ったり、秋葉原に遊びに行ったり、ビジネスホテルでデートを楽しんだりした。

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2014年4月から建設会社で働いた。異動願いを出して、半年後には恋人が住んでいる千葉県に移った。2週間に1度ほど、恋人とデートする。半年で仕事をやめて、2015年4月から相手と同居した。親は会社をやめたのだから帰ってこいと求めたが、tbさんは千葉に留まり、八百屋で働きだした。

 

建設会社にいるときから、自分が発達障害者ではないかと疑っていた。診断を受けて、八百屋に伝えたら、解雇された。愛知に戻って、半年のあいだ失業保険で過ごした。千葉に戻り、2016年6月から2020年の3月まで東京駅の量販店で、物流の事務作業に携わった。「何かを誰かにしてあげているという実感が好きなんですね。店舗のバックアップが楽しかったです」。

 

彼氏の影響で、洋楽が好きになった。いまでもEDMをよく聞く。「脳への刺激が強いのが好きですね」。ラップも好きだと言う。「やっぱり刺激が強いですから」。

 

だが、その恋人との関係が悪くなり、相手に新しい同性の恋人ができた。2019年5月に同居を解消。

 

tbさんは千葉でひとり暮らしをしていたが、発達障害の自助グループで、ある女性と親しくなり、2019年12月から交際することになった。しかし彼女をベタベタ触ったのが疎まれて、2か月で別れた。女性の恋人がいたときも、元彼と交流していた。

 

2020年3月。tbさんは睡眠薬を大量服薬し、自殺を図った。愛知県の実家に戻り、療養生活に入った。tbさんは語る。「ぼくは、好きになった人に触る欲求を抑えられないんです。ADHD的な欲求が制御できない。ASD的なこだわりかもしれない」。

 

いまtbさんは、また元彼と会いたい、関東に戻りたいと考えている。好きになった人への執着。「普通の人でもそういう執着はあると思うのですが、ASDのこだわりがあるから強くなっているのかも、と思っています。いまそのことがいちばんの悩みです」。

 

2017年、仕事が忙しくて薬に魅了され、強力な薬を個人輸入するなどした。「メンヘラ界隈で情報を集めました」。交際していた発達障害の彼女のことを理解したくて、脳の性差について調べているうちに、脳そのものに興味が湧いた。tbさんは日常的に、Twitter上で脳科学を参照した当事者研究をおこなっている。「凝り性なんですよね」と言う。

 

tbさんは夢を語ってくれた。「誰かの手伝いをする形で、発達障害も含めて精神疾患のイメージを良くしていきたいって思ってます。精神障害にネガティヴなイメージがあるから、患者の症状は余計に悪化してしまうと思うんです。精神障害への恐怖を薄めることができると、死への恐怖も減っていくのではないでしょうか。死は誰もが直面する精神障害のようなものだからです」。

 

tbさんはきょうも脳科学を学び、自分に対する当事者研究を進める。

(横道誠「発達界隈通信!」第17回了)

 

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