第9回 生活上の不満について一緒に考えて、角度を変えてそれらの不満を眺めることで、解消し、受容する【ビーン・マコトさん】

第9回 生活上の不満について一緒に考えて、角度を変えてそれらの不満を眺めることで、解消し、受容する【ビーン・マコトさん】

2021.4.29 update.

横道誠(よこみち・まこと) イメージ

横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
上梓したばかりの当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

ビーン・マコトさん(以下、通称の「ビーンさん」)は30代後半、大阪府堺市在住。ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けている。

 

ビーンさんが両親から聞いた話によると、「1歳や3歳の検診で引っかからなかったけど、歩きはじめるのは遅かった」。だが、中学校を卒業するまでは気楽に生きられた。「多くの発達障害者とは違いますよね」とビーンさん。問題行動を起こしても、周囲の友だちが助けてくれていた。こまかな困りごとはあった。発達性協調運動症があり、縄跳びが飛べないなど、体育はまったく不得意だった。靴紐を結ぶのに時間がかかった。

 

高校生になって環境が変わり、豊かな友人関係が失われた。以前の状況が特に恵まれていたのだと気づかず、新しい環境になじむ努力をしなかった。その結果として、クラスでいじめられた。しかし「この環境がおかしいんだと、間違っているのは周りのほうだと、そういうところに行っている自分はすごい人間なんだと、思おうとしました」。図書室に引きこもってアニメ雑誌を読んだり、太宰治を読んだりした。高校2年になってクラス替えがあり、状況は改善した。勉強では理系の科目が分からず、悩んだ。

 

京都の私立大学に進学し、仏教学を専攻した。アニメ系のサークルに入りたかったが、世間体が悪いと考え、歴史学研究会に入った。親から「文学部なんか行っとったら仕事ないで」と言われ、不安が膨らんだ。「このままでいいんかな、いいんかなってばっかり考えてましたね」。北魏の時代の仏教と道教の対立について卒論を書いた。新卒としても既卒としても就職のための面接を重ね、「200社ほど受けたんですけれども、どこにも受からなかったですね。一社も!」とビーンさん。

 

面接に心が折れて梅田を歩いていると、英会話やパソコン操作の能力を高めることができるという勧誘に引っかかり、会社に連れていかれて契約を強要された。騙されたと腹が立ち、その会社が運営する講座に行かないことにしたものの、授業料という名目で80万円を36か月のローンで請求された。借金を返すためにアルバイトに励まざるを得なくなる。

 

「集中できれば良かったんですけど」と本人は語る。「やる気が起きず、ニコニコ動画を見たり、ゲームをやったり、アルバイトをしたりと1年半くらいダラダラ過ごしてしまいました」。親から「将来のことを考えてるのか」と詰問されたので、公務員試験を受けるために勉強していると嘘をつき、親を騙すためだけに実際に受験して不合格になった。

 

あまりに疲れていて、妄想が膨らむようになった。中学生のころから付き合いのある同級生に、悪友がいた。ビーンさんは不思議なことに、「こいつを更生させれば、社会的に認められる!」という妄想を抱いて接近し、頻繁にたかられることになった。「おまえが車を触ったせいで壊れたぞ」と非難され、夜中に刑務所の前に連れていかれて、「おまえ、ここに入らなあかんようなことをやったんやぞ」と脅された。ビーンさんは思考力が鈍っていたために慌てて、120万円を払った。そのことが親にバレて怒られた。

 

ハローワークに行き、「なぜ自分はうまくいかないのか」と訴えたところ、初めて「発達障害の疑いがありますね」と指摘され、職業カウンセリングセンターを紹介された。検査の結果、おそらくそうらしいとの通知。

 

ビーンさんがそのように教えられたのは、2008年のことだった。2005年に、ようやく発達障害者支援法が施行。発達障害者が障害者手帳を取れるようになったのは、障害者自立支援法が改正された2010年以降だった。現在では考えられないことだが、ビーンさんは、アルバイトでも3年半ほど連続して働けていたことで、障害者とは見なせないという判定になった。

 

鬱状態がひどくなり、不眠になったことをきっかけとして、発達障害者支援センターに相談した。発達障害の傾向があることが確認され、病院を紹介されて、WAIS-III成人知能検査を受けた。広汎性発達障害の診断がおり、半年通院して、障害者手帳を取得した。

 

だが、手帳の取得は親に強要されてのことだった。「障害者」として烙印を押されたと感じ、「悔しくて悔しくて仕方がなかった」。それを撥ねかえすようにして、警備員のアルバイトに注力しはじめた。仕事を頑張れることを実証し、手帳を返還することを目標にしていた。そして、実際に手帳を返還した。「社会不適合者だから助けてやる、乞食だから障害者サービスを恵んでもらっているという被害妄想を抱いていたんですよね」と振りかえる。

 

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サービス残業が多い警備の現場にイヤ気が差してきたビーンさんは、務めている警備会社に、大阪本社から兵庫県の三田支社に転勤する者には転勤手当をつけるという制度があることを知り、2015年5月から兵庫県篠山市に移住した。これまでと異なる環境と農業に魅せられて、ビーンさんは警備会社を退職。フリーターとして農業に本腰を入れるようになり、退屈はしなかったが、労働はきつく、やがて過労で癲癇発作を起こして、倒れてしまった。

 

病院に検査入院することになったビーンさんは、障害者手帳を再取得。退院するや、乗っていた車を全損する自損事故を起こす。自分は完全におかしいのではないかと悩み、兵庫県丹波市の病院で脳波の検査をしたが、異常は認められなかった。「これ以上はうちでは調べられません。大学病院に行ってください」と告げられた。だが、実際に大学で検査入院をする前に、ふたたび癲癇発作を起こして倒れ、倒れたことで顎の骨を骨折した。堺市に戻って、医者から半年間の就労制限を伝えられ、療養生活に入った。

 

2019年の8月から社会復帰して、コンビニで働きだしたビーンさんの顎は、同年12月にようやく完治した。しかし翌年からのコロナ禍によって社会情勢が悪化し、仕事を続けられなくなった。現在のビーンさんは雇用保険を貰いながら、自立訓練施設に通っている。

 

そんなビーンさんを癒してくれるものは、趣味だ。卒業論文で中国史に向きあったビーンさんは歴史好き。20代のころは、歴史背景が詳しく設定されたロボットアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』にハマった。Wikipediaで歴史系の記事を読んで知識を蓄えた。現在はカルロ・ゼン原作の『幼女戦記』のマンガ版を読んだり、アニメ版を見たりする。篠山にいたころは黄檗山萬福寺に発祥した煎茶道に取りくんでいた。

 

歴史系以外でも独自の趣味がある。前衛的な作風が話題になった谷川流原作のアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』に心がとろけた。マンガ家としてもニコ生主やVtuberとしても活躍する佃煮のりお(犬山たまき)のファン。別のVtuber、白雪みしろがデビュー前に、佃煮のりおからIT機器の使い方、配信時のサムネイルの作り方などを手取り足取り教えられてプロデュースされ、売れっ子へとのしあがったという逸話を、ビーンさんは教えてくれた。そのプロデュース能力が、ビーンさんを惹きつけるという。ほかのVtuberとしては桐生ココを推していて、彼女の怪しい英語講座を楽しんでいる。好きな芸能人は、やや趣味性が薄く(?)、橋本環奈。

 

ビーンさんは、発達界隈では自助グループの運営者として存在感を有する。2013年12月、たまたまFacebookで「発達障害者の男性、一緒にメシ食いませんか」という投稿を見た。出会った人たちから「さかいハッタツ友の会」を紹介され、2014年1月から発達障害の自助会に通うようになった。篠山に移住していた時期には縁が切れたが、堺でリハビリをおこなうようになって、「どういう生き方を模索しようか」と考え、自助グループのことが思いうかんだ。グループ名は、子どものころに好きだった『仮面ライダーBLACK』に登場する人気のある敵役の名、「シャドームーン」を提案。その後、諸事情に配慮して「シャトームーン」に名を変え、堺で立ちあげた。ビーンさんは語る。「お茶を飲みながら生活上の不満について一緒に考えて、角度を変えてそれらの不満を眺めることで、解消し、受容する。そういうことの手伝いの会にしたいと思うようになった」。「シャトームーン」は、「満足」の〈satisfaction〉から「S」を取り、「Sムーン」と名を変えた。

 

ビーンさんは話していると、隙があればうんちく語りを始めてしまう。私と、とても似ていると感じる。戦隊ヒーローものでは、『鳥人戦隊ジェットマン』がいちばん好きだというビーンさん。私も仮面ライダーでは『BLACK』が、戦隊シリーズでは『ジェットマン』をもっとも愛するので、ビーンさんとは心が通いあうような気がした。『BLACK』の主人公、南光太郎や、『ジェットマン』のブラックコンドル、結城凱は、特撮ヒーローの歴史でも稀に見る孤独さを見せる、寂しく悲しい戦士たちなのだ。

(横道誠「発達界隈通信!」第9回了)

 

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