第5回 そんなに考えてないんですけど【ハツエルさん】

第5回 そんなに考えてないんですけど【ハツエルさん】

2021.4.15 update.

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横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
2021年に上梓する当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

 ハツエルさんは20代後半、東海地方在住。ADHDの診断を受けている。

 

 幼稚園に通っていたころは、落ちつくことが苦手だった。お遊戯の時間、読書の時間などで周囲に合わせられず、ひとりで廊下を走りまわっていた。「かいけつゾロリ」シリーズを好んで読んだ。

 

 小学生のときには、不注意がはっきりしていた。毎日のように宿題を忘れた。机のなかに使用済みのティッシュを押しこんでいた。気がつくとみんな移動していて、ひとりで取りのこされる。ランドセルを持たずに登校した。靴下を履いたままプールに入った。

 しかし、当時はまだ発達障害がいまほど注目されていなかったから、「天然な女の子」として片付けられた。成績は「とても良かった」と語る。特に国語ができた。小2のころからソロバンを習いはじめた。中学年のころには、「ハリーポッター」シリーズや、あさのあつこの『バッテリー』や『NO.6』を楽しんだ。

 

 高学年になり、中学生になっても、成績は良かった。学年では1、2番くらいだったという。ソロバンを続けていて、計算は良くできたものの、図形をイメージするのが困難だった。相変わらず忘れ物は多かった。提出物を忘れて、先生から呆れられていた。携帯電話をマナーモードにしていなくて、職員室に呼びだされた。部活では吹奏楽をやった。ドビュッシーが好きだった。合奏中なのに、よく入眠した。人間関係で困ったことはなかった。

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 地元の高校に入り、進学クラスの一員になった。知的探究心が強く、教師にしつこく質問して、疎まれるほどだった。授業中、口頭による説明が聞きとれず、教科書を読みふけって、対応した。部活は書道部。家でも学校でも5時間くらいなら、ずっと集中できた。「高校は平和でした」。カラオケに行って、松田聖子の「赤いスイートピー」など古めかしい曲を好んで歌った。

 

 関西の国立大学に入った。専攻は経済学。実家は貧しかったため、単位を落とせない。友だちと連携して、対策を立て、乗りこえた。ボランティア・サークルに所属していた。

 学生寮でひとり暮らしを始めたものの、何度もつまずいた。洗濯した服を干さずに放置する。鍋料理を途中でやめて、半年そのままにしたこともあった。排水溝の掃除をサボって、下の階にまで汚水が流れた。ゴミの詰まったポリ袋を部屋やベランダに溜めこんだ。郵便ポストを確認しないで日々を送り、公共料金を払わなかった。

 

 アルバイトでも、ひとつひとつの動作が遅かった。口頭で指示されても、すぐに理解できない。「もういい、私やるから」と突きとばされた。臨機応変に動けないため、「周りをよく見て動きましょう」と注意された。治したかったが、どうして良いのか分からない。

 

 シフトが段々と減らされて、辞めざるをえなくなった。オーナーが、ハツエルさんのシフトを減らすように指示していたことを知った。最後の挨拶で、そのオーナーから診断を受けたことがあるかと尋ねられた。調べてみて、発達障害についての知識を初めて得た。

 

 3、4の職場を転々とし、個人塾の講師に落ちついた。4年で卒業し、一般枠でIT企業に就職。給料が入ってすぐ、5月に受診して、診断を受けた。コンサータを処方され、多少はマシになったが、いろいろな失敗をした。1年ほどで上司に勘づかれて、現在は上司と近しい先輩だけがハツエルさんの障害を知っている。

 

 ハツエルさんは、さまざまなライフハックを開発してきた。たとえば「自分のやる気を信じない」。いくら自分のなかで決意を固めていても、「それはすぐにどっかに行ってしまうんです」。やる気が出なくてもできる仕組みを構築した。洗濯物は干せないと諦めて、乾燥機つきの洗濯機を購入した。掃除ができないので、カフェで仕事をして、外食を多くし、家に住む時間を減らして、汚れるのを防ぐ。

 

 「発達障害者はストレスが大きく、疲れやすいですよね」とハツエルさん。収入が少ない人も多い。そこで、近場の温泉つきホテルに泊まって、安上がりにストレスを発散する。「手軽に非日常を味わえるんです」。

 

 発達障害があると、鬱憤を抱えて酒を飲む人が多いが、そうして生活に悪影響が出てしまう。「だから、ちょっとだけ不良になるんです」。酒を飲むのではなく、甘いお菓子を食べたり、コーラを一気飲みしたりして、プチ不良気分を満喫する。

 

 以前は夜8時に寝て、朝4時に起きるという生活を送っていた。公園に行ってランニングするのが面倒になって、やめた。

 

 数年前まで車に乗っていたが、5、6回の自損事故を起こし、何度もバッテリー切れを経験して、「乗らない方がいいなって思いました」。すでに車を手放している。

 

 発達界隈の印象について尋ねると、「発達障害者は、精神年齢が定型発達者の2/3と言われているけど、だからこそくだらないことが好きで、冗談にもノッてくれるところが良いと思います」と答える。

 

 ハツエルさんはツイートの名手で、多くの「いいね」を集めている。少し、引用してみよう。

 

《電車が来る5分前にホームに到着したのに来た電車を「電車だな〜」って思って見てたら行ってしまった。乗るの忘れてた》

 

《休日に音楽を聴くと普通にいい曲だな…ってなるんだけど、同じ曲を平日の通勤バスの中で聴くとめちゃくちゃ感動して泣きそうになるの、多分死刑囚が死ぬ直前に食べる饅頭みたいなやつなんだと思う。私は死刑囚》

 

《コンサータの管理カードを提案した人、ADHDのこと知らなさそう》

 

《家で鬼滅観てたらなんか強くなりたくなってきて、今腹筋してる》

 

《発達障害者、精神年齢は低いのになまじ辛い経験を多くしているせいで達観した部分もあり、結果としてよく分からない生物になってるよな》

 

《フォロワーさん、発達障害治るボタンと100万円貰えるボタンあったら迷わず発達障害治るボタン押しそうだけど、押すボタン間違えて100万円貰ってそう》

 

《Twitterには発達障害に悩んでいる人がこんなにいるのに外に出るとみんな「健常者ですよ」って顔して歩いてるの、ほんと意味分からないなと思う》

 

《発達障害者はツイッターに向いてると思う。ネタツイを考えなくても生そのものがネタなので》

 

《人間はアンバランスで矛盾しているから魅力的なんだと思う。ジムに通っているのにすぐエスカレーター使う人も、部屋を掃除しようと決意しながらコートを床に脱ぎ捨てる人も、痩せたいと言いながら牛丼をかき込む人も、みんな矛盾してて魅力的だし、全てを満たしてる私はめちゃくちゃ魅力的》

 

 バズるツイートのコツを尋ねると、「そんなに考えてないんですけど」と控えめな返事。最近は新たに、ブログに取りくんでいる(「発達障害OLが持論を展開するブログ」)。

(横道誠「発達界隈通信!」第5回了)

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