第1回 執筆者はこんな人です

第1回 執筆者はこんな人です

2021.3.25 update.

横道誠(よこみち・まこと) イメージ

横道誠(よこみち・まこと)

1979年生まれ。京都府立大学の准教授で、専門はドイツ文学研究・比較文化研究。子どものころから「稀代の変人」として、生きづらさに苦しむ。能力の凸凹(でこぼこ)が激しかったが、研究能力に秀でていたため、長年医学的な診断を受けずにいた。だが40歳のときに二次障害を起こし、41歳でついにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受ける。
2021年に上梓する当事者研究の本(ほぼ自伝?)の『みんな水の中』(シリーズケアをひらく、医学書院)が初の単著単行本。

Twitterアカウント:
https://twitter.com/macoto_y(研究者・著者として)
https://twitter.com/macoto_1(自助グループ主催者として)

 

 今回から、『かんかん!』で「発達界隈通信!」を連載することになった。

 

 発達界隈。それは一体どこにあるのだろうか。それはなかばデジタルの、なかば現実のコミュニティだ。デジタルでは、2010年代から2020年代にかけてはTwitterが中心だ。2000年代はmixiや2ちゃんねるがそうだったかもしれない。それ以前のことは分からない。現実では、発達障害者の自助グループや当事者研究会、発達障害者向けのイベントバーの周辺に広がっている人間関係を指す。

 

 私は子どものころから、どうしようもない生きづらさを抱えてきた。発達障害者がよく語るように、自分が地球外知的生命体のように感じられていた。でも私は文学、芸術、歴史などを好み、自然科学に反発があったから、医療や福祉の知識を自分から遠ざけようとした。その結果として、長年自分が発達障害者だと気づかないままになった。「自閉症」や「アスペルガー」という言葉を聞いたことはあったけれども、近づいてはならない危険な世界のもののように感じられていた。「ADHD」や「発達障害」は聞いたこともなかった。あるいは耳に入ってきても、記憶に引っかからなかった。

 

 幸運と人間関係に恵まれ、29歳で大学の常勤教員になってからも、私の生きづらさは変わらなかった。だが、詳しい話は、5月に医学書院の「シリーズ ケアをひらく」から刊行される『みんな水の中――「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』に譲ろう。ほとんど自伝のようなものだから、読んでくださったかたは、私以上に(?)私について知ることができると思う。「ここまで書きますか」ということをたくさん書いてしまったので、照れくさいけれども、ぜひ手にとってみてください。

 

 ところで読者の諸兄姉は、この『かんかん!』に掲載されている「当事者研究体験ゲーム」を、もう遊んでくださっただろうか。私自身が主催している当事者研究会をモデルにしたフィクション仕立てのゲームブックだ。加えて、私のことを知ってもらうために、今回の連載が始まった。次回から私の周りにいる発達障害者のみなさんのことをレポートしていくのだが、初回の今回は、私の散歩ルートと、私が大切にしている持ち物から7点を選んで、私の現在について少し紹介することにしよう。

 

 まず散歩ルート。私が住んでいるマンションから最寄りのバス停までは3分くらい。バス停の名前は「金閣寺前」。平常時は、このあたりは日本一混雑している場所のひとつなのだが、コロナ禍によって、とても歩きやすくなった。バスに乗っても、簡単に座ることができる。朝、起きてからすぐに金閣寺を拝観することもある。入場料400円。自宅から10分くらいで金閣寺を見られる環境は、とても良いと思っている。

 

金閣寺.JPG


 金閣寺を出て、北大路通を東に歩いて行くと、大徳寺が近づいてくる。以前は大徳寺の隣に住んでいたこともあった。千利休が自分の像を飾って、切腹の原因になったという金毛閣を見るのが好きだ。

 

金毛閣.JPG

 

 さらに北大路通を東に進み、勤め先の京都府立大学が近づいてくる。自宅からここまで、私の速くない足で歩いて40分ほど。大学には寄らずにさらに先に行き、下鴨本通との交差点を南下すると、下鴨神社が近づいてくる。その南に広がっている糺(ただす)の森がとても好きだ。

 

糺の森.JPG

 

 この森を抜けていくと、加茂川と高野川が鴨川になる合流点、出町柳が近づいてくる。河合橋の北側から、高野川をよく撮影する。川辺の草の色がまだ寒々しい。

出町柳.JPG

 ここまで歩いたら疲れたので近くのバス停「出町柳駅前」から市バス1号系統に乗っ

て、私にとってのもうひとつの最寄り駅、「千本北大路」へ帰還。眼の前にあるスーパーマーケット、イズミヤで買い物をして、帰宅してから料理に勤しむ。「牡蠣とチーズと白ワインのリゾット」を作った。とてもおいしい。

 

リゾット.jpg

 

 

 以下、内容がグッと濃くなるが、私の持ち物を使った自己紹介。

 

 私は長年、さまざまなものを収集してきた。いまではたいした収集家ではないのだけれど、自己形成にとって大切だったと判断したものは残している。

 

 まず挙げたいのは、頭木弘樹の『食べることと出すこと』。勤め先の大学生協で購入。「シリーズ ケアをひらく」から2020年に刊行されたこの本は、とてもおもしろく、文体によっても内容によっても「おなかにたまる」。私は他者の影響を受けやすく、『みんな水の中』を書いているときにも、油断をすると頭木文体になりかけてしまうときがあった。慌てて、そういう箇所がなくなるように調整したのだった。『食べることと出すこと』のような本は私には書けないけれども、『みんな水の中』も私にしか書けない本に仕上がっていたら嬉しいな、と思っている。

 

 泡坂妻夫の『生者と死者――酩探偵ヨギガンジーの透視術』(新潮文庫)。丸善京都本店で購入した。未読のかたは、ぜひそのゲーム性に酔いしれてほしい。こういう遊び心に富んだ小説が、私は大好き。邪道だけれど、教え子の前でぱらぱらめくって見せて、タネだけ教えて喜んだりしたことがあった。外国ものならマーク・Z. ダニエレブスキーの『紙葉の家』(ソニー・マガジンズ、絶版)を同じようにして使う。そんな私の嗜好から、『みんな水の中』も「当事者研究体験ゲーム」も生まれてきた。

 

 鈴木志郎康の『罐製同棲又は陥穽への逃走』(季節社)。「詩の芥川賞」と呼ばれるH氏賞受賞作。1967年の初版限定300部の1冊を所有。ドリス書房が東京の森下に立地していたときに、店内で見つけた。興奮のあまり、かなりのプレミアムがついていたのに、即買いしたことを思いだす。いつか詩を書くなら、この詩集に入っているような詩を書きたいと思っていたけれども、『みんな水の中』の第I部に書いた詩は、実際にはかなり異なるものに仕上がった。

 

 ハリー・スミス(Harry Smith)の《Anthology of American Folk Music》。1952年に発売された3巻6枚組のLPレコード復刻版。京都の尖りすぎなCD・レコード店、Meditationsで購入。アメリカの民俗音楽を収録したステキな音盤たちだ。2020年にはカンパニー社から『ハリー・スミスは語る――音楽/映画/人類学/魔術』が出版された。改めて、とてもうさんくさい人物であることが浮き彫りになったのだが、こういうゴッタ煮的才能を、いまの時代は改めて求めているのではないだろうか。私も目指したいなと野心を研いでいるが、おそらく私では力不足のはず。

 

 満州国への派兵を記念する漆器の角盆。京都祇園の骨董屋、舞妓アンティークスで購入した年代もの。「諸行無常の響きあり!」と感じて、心を射止められた。満州国が存在した時間は13年半、2006年設立のTwitterの歴史はすでに満州国の歴史を超えている、というツイートをしばらく前に見かけた。私がTwitterを始めた時期は遅かったものの、いまは12個のアカウントを持っている。自助グループ・当事者研究会用アカウントだけで7種類もある。ほかに、研究者用・各種研究会用アカウントが数種類、秘密の鍵付きアカウントもある。

 

 以前は集めた骨董とガラクタを公開し、解説するアカウントも持っていて、それなりにフォロワー数も多かった。ところが、今回ここに書いたものを含めて、レトロなアイテムについて投稿していると、ネトウヨさんのフォロワーが増えてしまって、彼らと絡む(しかも賞賛される!)機会が増えるばかりだった。イヤになってしまい、アカウントを消滅させた。

 

 石川賢の『魔獣戦線』。大阪にあるまんだらけグランドカオスが心斎橋にあった時代に購入。かなりのマンガ通でなければ知らないこの作品。初めて読んだときは衝撃を受けた。というのも、10代のころに夢中だったテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、このマンガを下敷きにしたものだと知ったからだ。それも、部分的なオマージュというよりは、全面的なオマージュ。

 

 この記事を書いている私は、「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」をキャッチコピーにした新劇場版完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を鑑賞して、初めてテレビシリーズを見ていた26年前のことを思いだしたり、この四半世紀の自分史を振りかえったりして、感慨に耽った。

 

 精神分析やアダルトチルドレンの問題に関連づけて語られることが多い本作だが、思うに「発達障害」から読みとく意義があるのではないか。発達特性の環境への不適応、そこからの鬱状態への沈潜、そして仲間との出会いによる回復。主人公の碇シンジも、総監督の庵野秀明もそんな過程を歩んだのではないか。本棚の『魔獣戦線』(双葉社パワァコミックス版)を見つめながら、思いをめぐらせる私だった。

 

 最後に、なんとも言えない顔つきをした犬の置物。一時期、犬、猫、兎、鹿、山羊、牛、熊、亀、蛇などの置物を集めまくっていた。自宅はさながら、人工物でできたペットショップと化した。この犬は愛知県犬山市の古道具屋、屋根裏で購入した逸品。地名の「犬」繋がりも嬉しい。ちょっと気持ち悪くて、なんだかかわいいと思いませんか。

 

 写真の解像度を荒いものにしたり、蛍光色で演出したりするのは、私のいつもの癖。私は(『みんな水の中』でも書いたことなのだが)、そのような体験的世界を持っている。写真では私のその第一次的感覚が再現されないため、加工することによって、「これこそ私がいる世界!」というものを再構築する。以上、私のひとまずの自己紹介。

 

 

レトロアイテム.JPG

 

(横道誠「発達界隈通信!」第1回了)

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