第31回 前立腺がん検診のメカニズム

第31回 前立腺がん検診のメカニズム

2020.11.01 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

 

PSAによる前立腺がん検診は死亡率減少効果がない⁉

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

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テーマ●PSAと画像検査(エコー、CT,MRI)

 

第20回では、がんではあるけれども、非常にゆっくり進行して、寿命に影響しない「ラテントがんについて解説しました。前立腺がんと甲状腺がんは原則的に進行が遅く、結果としてラテントがんになりやすいという傾向があります。

今回は、その前立腺がんの検診について解説します。

がん情報サービスによると、男性のがんの罹患数(2017年)は、多いほうから順に、①前立腺がん、②胃がん、③大腸がん、④肺がん です。

なんと、男性のがんでもっとも多いのが前立腺がん(91,215人)なのです。

では死亡数はどうかと言うと、前立腺がんは12,250人で8位と、順位がかなり下がります。

つまり、前立腺がんは、頻度は高いけれども、亡くなりにくいがんなのです。


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グラフを見れば分かるとおり、罹患数と死亡数の差は歴然としています。

そして特筆すべきは、罹患数が急上昇していることです。

罹患数は、その年に「新たに診断される人」の数なので、罹患数から死亡数を引いた約8万人が、毎年毎年積み重なっていくのです。とにかく非常に多い、ということです。

 

なぜ前立腺がんはここまで急速に増えているのでしょうか?

その主な原因は、腫瘍マーカーの一種である「PSA」を使った前立腺がん検診が広く行われるようになったことです。

体内にがんができると、「がん自体」か「人体」が、がんに反応して特定の物質を作り出すことがあります。健康なときには上昇せず、がんの発生、増大に伴ってその物質の値も上昇していくのであれば、がんの補助診断として有用です。そのような性質をもった物質を総称して、「腫瘍マーカー」と呼びます。

採血をして腫瘍マーカーが上昇していれば、体内のどこかにがんがある可能性が高まります。採血だけでがんの有無をチェックできるのであれば、大掛かりな検査に比べて身体の負担も少なく、費用も抑えられるので、こんなに素晴らしいことはありません。

しかし残念ながら、早期がんの段階で確実に上昇する腫瘍マーカーはほとんどありません。大抵は上昇するとしても進行がんになってからなので、早期がんの発見目的、つまりがん検診ではあまり使えないのです。

しかし、そのほぼ唯一の例外が、前立腺がんに対する腫瘍マーカーである「PSA」です。

PSAは、早期の前立腺がんでも上昇することが多いため、がん検診として使用することができるのです。

 

660新マンガ31.jpg

 

PSA検診に関しては、ヨーロッパの大規模臨床研究では死亡率が20%下がったと報告され1)、米国の大規模臨床研究では死亡率は下がらなかったと報告されています2)

この相反する結果を受けて、日本ではPSAは対策型検診に取り入れられていません。

さらに早期の前立腺がんを「手術するグループ」と「治療せずに経過観察するグループ」にランダムに割り振って20年間経過を追ったところ、両グループで前立腺がんの死亡率には、統計学的な差がなかったという報告もあります3)

 

PSA検診で前立腺がんを見つけること自体は、決して悪いことではありません。ただし、前立腺がんが見つかったから、そのすべてを一刻も早く治療しなくてはいけないわけではないのです。特に非常に高齢の人の場合、ラテントがんになる可能性も考慮すれば、何も治療せずに経過観察することも容認されるでしょう。

 

治療には様々な合併症がつきものです。治療の必要性と合併症のリスクを天秤にかけて、発見された前立腺がんが、寿命に影響するのかどうかを慎重に見極める必要があるのです。

 

文献

1) Schröder FH, et al. Screening and prostate cancer mortality: results of the European Randomised Study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC) at 13 years of follow-up. Lancet. 2014 6;384:2027-35.

2) Andriole GL ,et al. Mortality results from a randomized prostate-cancer screening trial. N Engl J Med. 2009;360:1310-9.

3) Wilt TJ ,et al. Follow-up of Prostatectomy versus Observation for Early Prostate Cancer. N Engl J Med. 2017;377:132-142.

(了・次回へ続く

 

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