第24回 ピロリ除菌のメカニズム

第24回 ピロリ除菌のメカニズム

2020.6.15 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
●公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著は『ほんとは怖い健康診断のC,D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

 

| ヘリコバクター・ピロリの除菌で食道がんが増える? 胃がんが見つけにくくなる?

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

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テーマ●胃がん発症のリスクとピロリの除菌

 

がんの診療において、早期発見(二次予防)が大切であることは間違いありません。

しかし、それよりももっとよいのは、そもそもがんができないようにすること(一次予防)です。

第1011回でも解説したとおり、一次予防のためには、生活習慣の是正と、感染症のコントロールが必要です。

胃がんの場合は、「タバコ」「食塩の過剰摂取」、そして「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」が発がんリスクを上げることがわかっています。

この中で、影響力の強い因子と言えば、なんと言ってもピロリ菌です。

実際に、胃がんを発症した人にピロリ菌がいるかどうかを調べてみると、ほとんどが現在、ピロリ菌陽性か、過去にピロリ菌に感染していたかのどちらかです。ピロリ菌に一度も感染したことがない人が胃がんになることはめったになく、胃がん全体のおよそ1%にすぎないと考えられています1)

 

ではピロリ菌を除菌したら、どれくらい発がんのリスクを下げられるのでしょうか?この点については様々な報告があり、実は確定的なことはわかっていません。

ただし、総合的に判断すると、除菌によって発がんのリスクを30~40%ぐらい減らせるのではないか、と専門家の間では見積もられています。

 

さて、そんな除菌ですが、メリットばかりではありません

短期的な副作用」の出現率は4.4%で、下痢などの消化器症状、味覚異常、アナフィラキシー、肝・腎障害などが報告されています。

次に「長期的な副作用」として問題になるのは、「逆流性食道炎」です。

除菌をすると、荒廃していた胃粘膜の胃酸分泌能力が少し戻るので、増加した胃酸が食道に逆流して、逆流性食道炎を起こしやすくなるのです。

 

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なんと、良かれと思って行ったピロリ菌除菌でも、食道がんが増えたり、胃がんが隠蔽されたりする可能性があるのです。

除菌がメリットだけではないことは、保険適用当初から懸念されていましたが、やはりそれが顕在化してきました。

しかし、ここは冷静に考える必要があります。

たとえば、ピロリ菌感染が少なく、肥満が多い米国の場合、確かに逆流性食道炎が食道がんの原因の過半数を占めており、社会問題にもなっています。

しかし、決して「除菌イコール食道がん」ではありません。あくまで除菌によって胃酸分泌が正常に戻るだけなので、逆流性食道炎に至るかどうかは本人の心がけ次第です。

また、逆流性食道炎になっても、制酸薬などでコントロールも可能です。このように、食道がんに至るまでにはいくつか関門があるので、そこでブロックすればいいのです。

 

胃がんが隠蔽されうることは誰にとっても予想外のことだったと思います。

しかし、それは除菌後の胃がん全体から見れば、あくまでレアケースです。大半のケースでは、除菌後も胃がんを発見できています。たとえ一時的に見えづらかったとしても、ある程度大きくなれば、発見できるようになります。

除菌のメリットとデメリットを天秤にかければ、やはり胃がんのリスクを下げるというメリットのほうが大きいということは、現時点でもゆるぎません。大切なことは、「除菌をしたらもうそれでおしまい」ではないということ。決してガードを下げることなく、引き続きしっかり経過観察していくことが必要なのです。

 

文献

1)上村直実,他: H.pylori未感染胃癌の特徴.日本消化器内視鏡学会雑誌56(5):1733-1742,2014.

 

 


(了・次回へ続く

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