第22回 肺がん検診のメカニズム

第22回 肺がん検診のメカニズム

2020.5.15 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
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公式ブログ『医療のX丁目Y番地』 著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著に『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』がある。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

| えっ、レントゲンでは肺がんの死亡率は減らない?

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

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テーマ●肺がん検診をとりまくメカニズム

 

今回は、肺がん検診について解説します。

肺がん検診と聞けば、やはりすぐに連想するのは「胸部レントゲン」です。

対策型の肺がん検診は、「胸部レントゲンと、ハイリスク群(タバコを吸う人)への喀痰細胞診の併用」です。これによって、肺がんの死亡率が44%減少したと報告されています1)

ここでサラッと流れてしまう危険性があるのですが、「高危険群には喀痰細胞診を併用している」ことを頭にとどめておいてください。

 

もう1つ、対策型としては認められていませんが、「胸部CT」という選択肢もあります。

レントゲンが面としての「二次元的な検査」だとしたら、CTは断面を積み重ねることによる「三次元的な検査」といえます。CTのほうが圧倒的に情報量は多いので、病変を見つけるという点ではレントゲンよりも明らかに優れています(ただし情報量に応じて読影にかける労力は多くなりますが)。

CTを受けることによる肉体的な苦痛はほぼありませんが、「被ばくする」という点については注意が必要です。

一般的な方法でCTを撮影すると被ばく量が多くなるので、健康な人への検診としては不向きです。そこで被ばく量を低くする、「低線量CT」によるがん検診が行われています。

ハイリスク群(タバコを吸う人)5万人を対象とした臨床試験の結果、レントゲンに比べて、低線量CTのほうが死亡率をさらに20%減少させたと報告されています2)

 

医学書院22回修正版.jpg

 

ここで改めて強調しておきたいのは、「レントゲン単独で肺がんの死亡率を減少させるというエビデンス(科学的な証拠)はない」ということです。

むしろ、アメリカでは「年1回のレントゲン検査では肺がんの死亡率を減少させない」ことが報告されています3)

そのため、欧米各国( アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オランダ、フィンランド)では肺がん検診は行われていません4)。実は日本は例外的な立場にあるのです。

 

さらに注意点があります。

日本の「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」によれば、レントゲンを肺がん検診として用いる場合には、「2人の読影医による二重読影、過去フィルムとの比較読影などを含む標準的な方法を行った場合に限定される」と明記されています。

 

この短い一文には、実は非常に多くの論点が内包されています。

率直に言って、レントゲンを1人だけで読影している施設はいくらでもあると思います。

また、たしかに検診施設を替えると、過去フィルムが参照できなくなるリスクがあります。だからと言って、「検診施設は替えないほうがいい」とも言い切れません。替えるメリットもあるでしょうし、一律に回答できるような問題ではないのです。

さらに言えば、たとえ同一施設で受け続けたとしても、必ずしも過去フィルムを参照しているとは限りません。

実は、世の中で、文言通りに肺がん検診が行われているとは言えないのです。

 

以上のように、みなさんが当たり前のように撮っているレントゲン検査にも、詳しく検討すべき課題はいくつも残っています。

そういった状況を受けて、日本でも、低線量CTを用いた肺がん検診の有効性を検証するJECS試験が行われています5)

この試験の結果が出るのはまだ先ですが、どういった結果が出て、その結果がどう適用されるのか、大きな関心が寄せられています。ただし現時点で唯一明らかなのは、どんな結果が出たとしても、肺がん検診として日本人全員に低線量CTを行うことはできないだろうということです。

 

がんの中で、死亡率がもっとも高いのが肺がんです。その検診がどうなっていくのか、今後の行方を注意深く見守っていく必要があるのです。

 

文献

1) Sagawa M, et al. The efficacy of lung cancer screening conducted in 1990s: four case-control studies in Japan. Lung Cancer. 2003;41:29-36.

2) Aberle DR, et al. National Lung Screening Trial Research Team. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med. 2011;365:395-409.

3) Oken MM et al. Screening by chest radiograph and lung cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian (PLCO) randomized trial. JAMA. 2011;306:1865-73.

4)がん検診に関する検討会:市町村事業における肺がん検診の見直しについて,がん検診に関する検討会 中間報告,2008.

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0301-3.html

5) Sagawa M et al. A randomized controlled trial on the efficacy of thoracic CT screening for lung cancer in non-smokers and smokers of <30 pack-years aged 50-64 years (JECS study): research design. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:1219-21.


(了・次回へ続く

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