第20回 「過剰診断」はなぜ起きるのか

第20回 「過剰診断」はなぜ起きるのか

2020.4.15 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
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公式ブログ『医療のX丁目Y番地』 著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著に『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』がある。日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』JBpress連載『パンデミック時代の健康管理術

 

寿命に影響しない「ラテントがん」とは?

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

(過去記事のアーカイブこちらから)

 *ガストロペディア【消化器に関わる医療関係者のために】でも公開情報共有中

 

テーマ●死因にならなかったがんもある

 

前回はがん検診のデメリットとして、「肉体的な苦痛」や「検査の精度(偽陰性と偽陽性)」の判別困難について解説しました。

もう1つ、がん検診に特有のデメリットとして、「過剰診断」があります。

過剰診断とは、良性と悪性の境界病変が見つかることです。

偽陽性の場合と違い、過剰診断の場合は治療まで行われる可能性があります。本当は寿命に関係ないかもしれない病変が、たくさん治療されているのではないか、という懸念があるのです。

 

第8回で解説した通り、がんは遺伝子の変異が集積していくことによって、良性から悪性へと多段階的にがん化していくと考えられています。

ということは、当然、病変にも、悪性になり切る前の「過渡期的な段階」があるのです。

それが最終的にがんになりうるかどうかは現時点ではわからないので、病変が見つかった段階で、「経過観察する」か「予防的に治療する」ことになります。

 

確かに、明らかに寿命に影響しないような病変をどんどん治療すれば、患者さんにとっても不利益の方が大きいし、医療経済的にも問題でしょう。

しかし、多段階発がんの理屈からもわかるとおり、「境界病変を見つけること」と「がんを早期発見すること」はひと続きの過程としてつながっています。

「境界病変を見つけること」だけを不要なこととして切り捨てることは、現実問題として不可能なのです。

 

では、私たちは過剰診断の問題について、どう対処すればいいのでしょうか?

 

大切なことは、境界病変の症例を蓄積することです。境界病変を見つけたら、拙速に治療を選択せずに、できれば慎重に経過観察すること。そして悪性化の兆候が見られれば、機会を逃さずに治療する。これを繰り返すことにより、「この病変は経過観察で良い」「この病変は治療すべきだ」という判断を研ぎ澄ましていくことが、正しい方向性になるでしょう。病変の蓄積、集約、解析には、AIなどのテクノロジーの進歩も期待されます。

 

さて、「良性と悪性の境界病変」と似た概念として、「ラテントがん」があります。

がんは、発生する臓器によって、進行のスピードに大きな差があります。

たとえば、「膵がん」の進行のスピードが速いことは一般の人にも広く知られており、概ねそのとおりです。

では逆に、進行のスピードが遅いがんには何があるでしょうか?

一部例外はあるものの、「前立腺がん」と「甲状腺がん」が該当します。

境界病変とは違って、定義上がんであることは明らかなのですが、非常にゆっくり進むタイプのがんなのです。

ゆっくり進むため、発症するタイミングによっては、寿命に影響しないことがあります。

このように、死因にならなかったがんのことを「ラテントがん」と呼びます。

 

20回マンガ670.jpg

 

1点、大事な注意点です。

「がんによって進行のスピードが違う」という場合には2つのパターンが考えられます。

1つは、解説したとおり、前立腺がんや甲状腺がんのように、その臓器にできるがんの一般的な特徴として進行が遅いということ。

もう1つは、同じ臓器、たとえば胃にがんにできても、進行のスピードが速いものと遅いものがあるということ。

一般的には前者のほうの影響力が大きいと考えられますが、絶対ではありません。

一部には、非常に速く進む前立腺がんや甲状腺がんもあるし、ゆっくり進む胃がんもあります。

前立腺がんや甲状腺がんにラテントがんが多いのは事実ですけれども、決してイコールではないことに注意してください。

 

「ラテントがん」という名称は、寿命に影響しなかった場合に付けられるので、あくまで結果論としての用語なのです。

 

(了・次回へ続く

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