第11回 感染症とがん発生のメカニズム

第11回 感染症とがん発生のメカニズム

2019.12.01 update.

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近藤慎太郎(こんどう しんたろう)

東京都出身。近藤しんたろうクリニック院長(渋谷区)。北海道大学医学部・東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター(内視鏡室長)、クリントエグゼクリニック(院長)を歴任し、開業、現職。消化器内科専門医として年間2,000件以上の内視鏡検査と治療に携わる。特技はマンガ。本連載でも、絵と文ともに描き下ろしている。
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公式ブログ『医療のX丁目Y番地』
著書に、Amazonでベスト&ロングセラーになっている『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』『がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」』。近著に『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ! 最先端医療が命を守る』がある。
日経ビジネスオンライン連載『医療格差は人生格差』

 

| 感染症による発がんはこうして防ぐ

 

医師兼マンガ家の近藤慎太郎です。

自らのクリニックでの診療を拠点に、2つの総合病院で消化器内科の臨床にあたるとともに、自作のマンガを使って、エビデンスに基づいた医療情報を広くわかりやすく解説し、この国で予防医学が認められることをライフワークにしています。

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テーマ●がんとの因果関係が証明されている感染症について

 

前回は、がんを引き起こす原因の中でも、非常に大きな影響力をもつ「生活習慣」について解説しました。

今回からは、もう1つの大きな原因である「感染症」について解説します。

 

現在のところ、がんとの因果関係が証明されている代表的な感染症には下記のものがあります。

550第11回表.jpg

(注)ピロリ菌:ヘリコバクター・ピロリ HBV:B型肝炎ウイルス HCV:C型肝炎ウイルス HPV:ヒトパピローマウイルス

 

 

なぜ「感染症」にかかると、「遺伝子異常」、そしてさらには「発がん」が起きるのでしょうか?

いくつかの機序が想定されています。

 

1つは、炎症によるものです。

感染症にかかると、粘膜などに慢性的な炎症が生じます。

その結果、細胞の「壊死」→「再生」→「壊死」→「再生」→……を繰り返し、途中で遺伝子のコピーミスが起きて発がんする、という機序です。

 

また、感染症の原因微生物が、細胞の遺伝子に直接働きかける場合もあります。

 

たとえばHBVは、HBVの遺伝子が宿主の遺伝子に組み込まれることによって自己を複製したり、肝がんを発症したりします。

これらの機序は、それぞれ単一でというよりも、いくつかが組み合わさって発がんすると考えられています。

 

さて、生活習慣の場合は、それを是正することによって、発がんのリスクを下げることができます(一次予防)。

 

では、感染症の場合は、どうすればいいのでしょうか?

リスク低下のためには、感染症を来す微生物を対象とした「ワクチン」の接種、もしくは「駆除」が必要です。

ここでは、がんの中でも罹患数の多いものに注目し、ピロリ菌、HBV、HCV、HPVについて解説します。

 

670第11回マンガ .jpg

 

非常にありがたいことに、この4つの微生物の場合、

「高い確率で駆除が可能」か、ワクチンが存在するのです。

一次予防としてやれることがあるのです。

 

ピロリ菌の場合、一次除菌、それが失敗した場合の二次除菌を合わせて、99%以上の人が駆除可能です。

HCVの場合、ウイルスの種類(genotype)や薬の種類によっても違いますが、おおむね95%以上で駆除(持続的ウイルス陰性化)が可能です。

 

ただしここで重要なポイントです。

駆除したらそれ以降は発がんしない、というわけではありません。

駆除の時点では確認できない微小ながんが育っていて、今後大きくなっていく可能性は残されています。

あくまで、今後の新たな発がんのリスクを減らすというだけなので、ピロリ菌でもHCVでも、駆除が成功した後も、定期的に画像検査で経過観察する必要性があるのです。

駆除には本人はもとより、公衆衛生上のメリットもあります。つまり、ピロリ菌やHCVに感染している人が減れば、その分、他者に水平感染していくリスクが減るのです。

 

ピロリ菌の感染は、汚染された食物や水の経口摂取によっておこると考えられていますが、衛生環境のよくなった現代の日本での新規感染はまれになってきています。加えて、持続感染は免疫力が不十分な5歳未満で成立し、成人での感染はまれだと考えられています。

つまり、5歳までの間だけ注意をすれば、その後に感染するリスクは極端に低いということです。

その結果、現代の10代の若年者のピロリ菌の感染率は10%程度であり、今後はさらに減ることが予想されます。

 

またHCVは、まだ検出能力がなかった時代の輸血や、刺青の針や注射針の回し打ちで水平感染していましたが、現代の日本ではその問題はほぼ解消されています(非合法な領域は別として)。

 

また、性行為や母児の垂直感染はゼロではないものの、非常にまれです。

つまり、一般的な生活を送っている限り、HCVに感染するリスクはほとんどありません。

移民が大勢流入するといった劇的な人口構成の変化がない限り(ありえない話でもありませんが)、ピロリ菌による胃がん、HCVによる肝がんは、非常に珍しい病気になるでしょう。

 

では残る2つ――HBVやHPVの場合はどうでしょうか?

こちらは事情がもう少し複雑です。次回解説します。

(了)

 

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